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ゲームマスター–たった1分で読める1分小説−

「五時だ。終わったぁ」
 時計の針が五時を指すと同時に、ケイタはかばんを手にした。

 定時を過ぎたら一刻も早く会社を出る。会社とは適当に働いて給料だけをもらう場所だ。
 その考えは他の社員も同じで、すでに帰る準備を整えていた。

 さあ、帰ってゲームだ。ケイタが席から立つと、モニターの電源が入った。画面には、ぶきみな仮面をつけた男が映っている。
「私は、ゲームマスターだ」

 ケイタが失笑した。
「おいおい、誰のイタズラだよ」
 全員がケイタと同じ表情を浮かべたが、「扉が開かないぞ」と誰かが叫び、空気がピンとはりつめた。

「このビルのシステムはハックした。さらに……」
 うっ、とビル清掃のスタッフが喉に手をあて、バタンと倒れてしまった。
 キャアという女性社員の悲鳴が響きわたった。上司がスタッフに触れ、「死んでる……」とつぶやいた。

「君たちにも同じ有毒性のナノマシンをしこんでいる。先月の健康診断でね」
 ケイタが青ざめた。
「なぜそんなことを」

「ゲームを楽しみたいだけだよ」
「ゲーム? なんのゲームだ?」
「簡単だ。この社の業績を二倍にしてもらおう。もし達成できたら、体内のナノマシンは解除する」 
 そこでマスターが消えた。

 数日後、社長が大喜びした。
「みんな懸命に働くようになったぞ。役者を雇って仕かけた成果があった」
 経営コンサルタントが得意げにうなずいた。

「ゲーム世代をやる気にさせるにはこの方法が一番ですよ」


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浜口倫太郎 作家
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