
Photo by
futoshi0925
ここは事故物件ーたった1分で読める1分小説ー
「ここは事故物件です」
部屋探しで不動産屋を訪ねると、担当者にそう言われた。私は一向に気にならなかった。家賃が安ければいいのだ。
引っ越しすると、隣には老人が住んでいた。珍しいことに外国の方だった。
「よくきたね、歓迎するよ」
その老人は、気さくに声をかけてくれた。そのシワだらけの笑顔を見て、私は首をひねった。
どこかで見たことがある気が……。
ただ思い出すことができず、頭の中がかゆくなる感覚だけが残った。
ある夜帰宅すると、老人が庭でサッカーボールを蹴っていた。信じられないほどうまいリフティングだった。
「すごいですね」と私が褒めると、
「いや、昔ちょっとね」
老人が照れたように頭をかいた。
部屋でお茶でも飲まないか。老人が私を誘った。その簡素な部屋には、トロフィーや、写真が飾られていた。サッカーユニフォームを着た、若かりし頃の老人だ。
それを見て、私が老人が誰かを思い出した。
そう、彼はジーコだった。
元ブラジル代表のサッカー選手で、日本の鹿島アントラーズでプレーした。サッカー日本代表の監督になったこともある。伝説のサッカー選手だ。
そこで私は、ハッと気づいた。「ここは事故物件だ」と不動産屋は言ったが、それは私の聞き違いだったのだ。
彼はこう言っていたのだ。
「ここはジーコ物件です」
↓7月11日発売です。冴えない文学青年・晴渡時生が、惚れた女性のためにタイムリープをするお話です。各話ごとに文豪の名作をモチーフにしています。惚れてふられる、令和の寅さんシリーズを目指しています。ぜひ読んでみてください。

いいなと思ったら応援しよう!
