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命は金で買えるーたった1分で読める1分小説ー

2024年7月3日。
加瀬は声高らかに言った。
「いいか、この世に金で買えねえものはねえ」

加瀬は闇の仕事で莫大な富を得ていた。

どこか無邪気そうに、後輩の小池が反論する。
「先輩がすごいのはわかりますけどね。
金で買えないものもありますよ」

「バカ野郎、なんでも買えんだよ。だから資本主義ってんだ」
「じゃあ恋愛は? お金で人の感情は買えねえっすよ」
「一番簡単に買えるよ。女ほど金に目のねえ連中はいねえ」
「だったら命は、命は金で買えねえでしょ」

「おまえはほんとまぬけだな。いいか……」
加瀬は、途中で言葉を飲み込んだ。目の前に、妙な男が立っていたからだ。その手には拳銃が握られていた。

バンと鈍く乾いた音が響き、加瀬は左胸に衝撃を覚えた。撃たれた……加瀬は瞬時のうちにそう悟った。恨みならば星の数ほど抱えている。

男が逃げ去り、「先輩!」と小池が叫んだ。硝煙の匂いを嗅いだ瞬間、加瀬は不思議なことに気づいた。

痛くないのだ。なんと財布に入れたお札が、弾を防いでくれたのだ。

小池は穴の空いたお札を凝視し、目を輝かせている。金の凄さと魔力を目の当たりにして、感激でうち震えているのだ。

「どうだ。金で命は買えるだろ」
加瀬が不敵な笑みとともに、そう口にする直前、小池が弾んだ声を上げた。

「渋沢栄一の新札、もう持ってるんですか!」
「そっちに感激してんの?」


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コイモドリ 時をかける文学恋愛譚


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