自分の好きは宝になる
エンタメ作品は娯楽なので、普通は何も考えずに楽しめばいいんですが、作家やクリエイターなど作り手側になりたいと考えている人はそうはいきません。
だらっと漫然と眺めているだけではだめなんですよね。作品から面白さのエッセンスを吸収して、自作に生かす必要があります。
だから作品を見るときに大事なのが、「自分はどこが好きなのか」に注視することです。
「あっ、ここが好きだな」と思ったポイントはちゃんとメモをとるか記憶の引き出しに入れておく。
基本的に作品作りって、『自分の好きなものを集めて煮詰める作業』です。その凝縮された一滴が個性でありオリジナリティーなんですよ。
他作品との差別化なんて考えなくても、好きなものを煮詰める作業をすれば、おのずと個性のある作品になります。
だからこのキャラクターが好きだなとかこのシーン好きだなとか、とにかく自分が好きだと感じる部分ってクリエイターにとっては宝なんですよね。
作品を見ては「どこが好きだったか」を注視して書き止める。そういう風に作品を見る癖をつけると、次第に共通するものが浮かび上がります。
それを因数分解するように括弧で取り出す。この括弧に入ったものがクリエイターとしての個性となります。
まずざっと思い出せるだけでいいんで、自分の好きな映画作品をバーッと上げていきます。
例えば僕でいえば『バックトゥザフューチャー』『ペーパームーン』『クレイマークレイマー』『男はつらいよ』『フルモンティー』『スクールオブザロック』『がんばれベアーズ』『ミセスダウト』とかが好きなんですよね。
基本はコメディ要素があって感動できるものが好きなんです。
さらに共通点としてあるのが、主人公がダメな男性なんです。ダメな男性が奮闘する話が好きなんですよね。
最近のものでいえばアカデミー賞をとった『グリーンブック』も『イカゲーム』もダメ男が主人公なんですよね。だから好きなんです。
それと感動とコメディーが結びついてるのは、コメディー要素がないと僕はキャラクターに強く感情移入できないんです。
そのキャラクターに感情が入り込まないと感動って生じないんです。だからユーモアのない作品って、ミステリーとかサスペンス以外は基本受けつけない。
あと親子もの、家族ものという共通項も結構あります。スクールオブロックやがんばれベアーズは別に家族ものではないんですが、子供がでてきます。子供が登場する作品が好きなんですよね。
感動の名作は恋愛映画が多いですが、恋愛映画はあんまりぴんとこないんです。日本は難病ものの映画が多いんですが、正直あんまり好きじゃないですね。
好きな恋愛映画を上げると『猟奇的な彼女』なんですが、あれはコメディー要素がふんだんにあるんです。だから好きなんですよね。
いろんな作品を見て自分が好きな要素を括弧でくるんでしまう。それを元に作品を作ると、自分だけのオリジナルになります。
この手法で作ったのが、『お父さんはユーチューバー』という作品です。これは主人公がダメ男で親子ものです。さらに大好きな沖縄の宮古島を舞台にしています。
つまり好きなものを集めて煮詰めたものなんですよね。おかげでこれに関しては浜口倫太郎にしか書けないものになったなと思います。
もちろんミステリーやサスペンスやホラーも好きなんですよ。でももし自分が死んで棺桶にどの作品を入れるかと問われると、それらの作品は除外するかなと。
ということは『コメディ+感動系』というのが自分の基本路線であり個性だというのがわかります。
さらにいえば名作や評判の作品以外で、自分はこれが好きだなというのがあるじゃないですか。
他からの評価はボロクソだけれど、自分はなんか好きだなというのが。その『なんか好き』というのがお宝なんですよね。
その要素をちゃんと抜き出して自作に昇華できれば、よりオリジナル度は高まります。
だから作家志望の人が高評価のものばかり見るのはあんまりよろしくないんですよね。あと倍速で作品を見たりとか。
もうそれってお宝を捨ててる行為ですから。
さらに好きセンサーの感度を上げればこんなこともできます。
『ガタカ』という映画が好きなんですが、これは『ミセスダウト』と共通点があります。ガタカは宇宙飛行士を目指す男のSF映画で、ミセスダウトは家族映画です。一見あまり共通点はなさそうですが、センサーの感度を高めると気づきます。
それはどちらも『身分を偽っている』という部分です。
「正体がバレるかバレないか」というシーンで自分はぐっとのめり込んでいるなと気づいたわけです。
ガタカっていわゆる根性ものなんですが、そのハラハラドキドキの部分でかなり面白くなっているんですよ。ラストシーンのハラハラドキドキ、さらにそこを乗り越える過程がぐっとくるんです。
だから僕は警察官の潜入捜査、詐欺師などのジャンルが好きなんです。「正体がバレるかばれないか」のシーンが好きだとわかっているので、そこをより強調できるような設定やストーリーラインを練って作ることができます。
好きがわかると力を入れればいい箇所もおのずと浮かび上がります。
こうしてジャンル違いのものでも細かく細かく見ていけば、括弧で抜き出すことができます。
一体自分は何が好きなんだろう?
それを常に問いかけながら作品を見ると、自分だけの個性が光る作品が作れるようになるんじゃないでしょうか。