AIが描く「絵コンテ」で新規事業を加速させる方法
新規事業の立ち上げにおいて、アイデアをいかに迅速に具体化し、関係者や投資家に伝えるかは非常に重要です。口頭の説明やプレゼンテーション資料だけでは不十分な場合も多く、アイデアを視覚的に表現することが、事業の成功に直結することがあります。そこで、今回は新規事業の立ち上げやサービスデザインで、AI画像生成ツールがどのようなシーンで役立つかについて紹介します。
シーン1:利用シーンやコンセプトの合意形成をビジュアルを使って行う
以前私がいた広告業界、特にCMの制作現場では、アイデアを視覚化するために絵コンテと呼ばれるイラストがよく使われていました。絵コンテは比較的大規模な投資となるCM制作において、関係者の合意を取るために使う、映像のカットを絵で説明する一連のビジュアルです。絵コンテの制作はプロのイラストレーターである「コンテマン」に、サービスの利用シーンを描いてもらうことが一般的でした。
注:CM業界では、「企画コンテ」(クライアントへのプレゼン時に使用する、企画意図を伝えるためのもので、カット数は最低限、演出は詳細ではなく、視覚的に概要を共有する目的。広告代理店のCMプランナーが書く)と、「演出コンテ」(撮影や編集に使う具体的な指示書で、カメラアングルや役者の動きなど、細かい指示が盛り込まれている演出意図を伝えるもの。映像ディレクターが書く。映画やアニメで絵コンテとよばれるものはこちらを指す)という2種類のコンテが使われます。
新規事業構想のシーンにおいても、同じような関係者の合意形成をビジュアルを使って行うことは有効であり、利用シーンやコンセプトをわかりやすく伝える手法として絵コンテ(CMでいう企画コンテ)が使えるのでは、という考えはあったのですが、この方法はコストとスケジュールの制約で実施に至ることがほとんどありませんでした。
そこで登場するのがAI画像生成ツールです。AIツールを使えば、ビジュアル作成を瞬時に、しかも低コストで実現できます。例えば、「DiffusionBee」はオープンソースのStable Diffusionをベースとした無料のツールで、Macのローカル環境で使用でき、Webアプリのような生成枚数制限もありません。新しいモデル「Flux」を使えば、リアルで多様なビジュアルを短時間で生成でき、プロトタイプやビジネスプランの段階で視覚的に共有することが可能です。
例えば「ライドシェアアプリを使う一連の流れを4コマ、ミニマルなイラストタッチで」という指示では上記のようなイラストが作成できました。
#体験フローのプロンプト
A 4-part split storyboard, clean and realistic, showing a user interacting with a ride-share mobile app and the process of using the service. Scene 1: The user picks up their smartphone from a simple work desk setup, the phone screen is visible with the ride-share app's interface showing a map and the 'Request Ride' button. The illustration is realistic, capturing details like the texture of the phone and the user’s hand. Scene 2: The user taps on the screen, selecting their pickup location and confirming the ride request. The phone screen is clearly visible, and the user’s hand is shown interacting with the app. Scene 3: A car arrives at the user's location, with the user standing at the curb as the car pulls up. The setting is a realistic urban environment, with the car and surroundings drawn in detail. Scene 4: The user is seated in the back of the car, looking at their smartphone while the car is in motion. The car interior is realistic, with soft lighting coming through the windows, and the user appears comfortable in the seat. The style is realistic and detailed, with natural colors and lifelike shading, focusing on the user’s journey from requesting a ride to getting in the car.
コンテマンに発注する場合は、CMプランナーが書いたラフなイラストをもとに、車はどんな車種で、どんな町を走っていて、ドライバーは何歳くらいで性別は・・など画面要素全てについてリテイクがないように細かく指示をしていくことになります。AIの場合も上記のプロンプトのように同じような指示を行いますが、指示しなくてもとりあえず生成してくれるので上がってきたものに対して修正をかけていく、という方法を取ることができます。
画像を作ることができれば、テキストでの表現が難しい「どう見えるか」「どう動作するか」を簡潔に表現することが可能です。アプリのUIや利用するステップの流れを視覚的に表現することができます。出来上がった体験フローの画像を使えば、顧客へのサービス説明がよりわかりやすくできたり、体験の解像度が上がることによって見落としていた考慮すべき観点などに気づくことができます。
新規事業では、初期の段階でビジョンやアイデアがまだ曖昧なことが多いため、迅速に具体的な形にできることは大きな強みとなります。AI画像生成ツールは、こうした場面で迅速かつ柔軟にコンセプトを具現化できる非常に強力なツールです。
シーン2:未来のシナリオ発散時にAIが生み出す「予想外」がアイデアがヒントになる
AI画像生成の大きな魅力の一つは、詳細な指示を与えなくても、自動的にそれなりのビジュアルを生成してくれる点です。ときには、私たちが予想していなかった方向性の画像が出力されることもあります。この「予想外」が、特に未来のサービスシナリオを考える上で大きなヒントとなります。
#シナリオプランニングのプロンプト
A quarter-view split-screen collage showing two distinct future scenarios, with a toy-like, playful tone. On the left, a nature-infused environment where technology is seamlessly integrated with lush green landscapes. People, depicted as miniature toy figures, are interacting with eco-friendly devices, surrounded by trees, flowing rivers, and modern wooden architecture. The atmosphere is peaceful and organic, with soft natural lighting and warm, earthy tones like green, brown, and soft yellows. On the right, a near-future cityscape with sleek, advanced technology. Miniature toy-like people are using holographic displays, robotic assistants, and self-driving vehicles in a clean, modern city. The environment features toy-like glass buildings and metallic structures, illuminated by cool blue and silver tones. The overall style is detailed yet playful, with rounded shapes and soft textures, creating a contrast between the harmonious nature scene and the sleek, futuristic city.
例えば、少し未来のサービスや極端な未来のシナリオを想定する際、AIが生成する画像が、私たちの想像を超えたビジョンを提供してくれることがあります。これにより、視覚化が難しい未来のシーンや、ユニークなアイデアが自然に生まれることもあります。
このようにAIは「何が可能か」を無限に試すことができるため、複数のシナリオを生成して比較することが重要です。AIが提供するさまざまな未来像を見比べることで、新たなインスピレーションを得て、より豊かなプランニングが可能になります。将来のサービスがどのように発展するかを考える際、AIが描く絵コンテから新しい発見を得られることが多々あります。
シーン3:提供価値における「言語化できない魅力」を視覚化して発信する
AI画像生成は、未来のサービス体験やまだ形になっていないプロダクトの視覚化に非常に役立ちますが、言葉や静止画だけではピンとこない場合があります。こうしたときに効果的なのが映像化です。映像は、静止画やテキストでは伝わりにくい機能や操作感をリアルに表現してわかりやすく伝えることができるだけでなく、言葉では伝わらないプロダクトの魅力を視覚的に表現することができます。
#温かい雰囲気を表現した画像のプロンプト
A warm, cozy indoor scene with soft lighting and warm colors (yellows, oranges). A coffee machine is on a wooden counter, creating a welcoming atmosphere. Another scene with a serene, quiet room, lit by dim lights, with muted blue tones, depicting a sense of calmness. Both scenes should emphasize texture and mood, like a film still, focusing on warmth and tranquility.
例えば、「暖かい雰囲気」を伝えるには、黄色や橙色を強調した温かみのある色合いを使ったり、「静謐な空気感」を伝えるために環境音を抑えた演出を施すことがあります。こうした映像演出の強みは、時に言葉以上に雄弁です。こちらもCM業界に照らし合わせると、ビデオコンテと呼ばれる既存の映像をつなぎ合わせた映像で、制作しようとする映像のトーン&マナーと呼ばれる映像表現についての合意形成を目的として動画を作成することがあります。
新規事業においてはクラウドファンディングでの説明動画や、ローンチ時のプロモーション映像などエンドユーザーに対して特に有効な手法ではないでしょうか。
AIによる動画生成技術も日々進化しています。OpenAIやGoogleなどが提供する最新のツールでは、動画の生成が次第に容易になり、コンセプト映像をAIで作成することが、将来は新規事業の立ち上げにおいて当たり前になるかもしれません。今後、これらの技術を活用すれば、さらにクリエイティブな方法でビジョンを形にすることが可能になるでしょう。
CGで作成した山(1コマ目)をRunwayを使って映像化したもの
まとめ
AI画像生成ツールの登場により、新規事業のアイデアを視覚化するプロセスが劇的にスピードアップしました。以前はコストやスケジュールの制約で実現が難しかったコンセプトのビジュアル化も、今では誰もが手軽に試すことができます。AIの力を借りて、新たなビジネスの可能性を無限に探索し、予期しない発見やインスピレーションを得ることが可能です。これからの事業開発において、AIは単なるツールに留まらず、イノベーションを生み出すパートナーとなるでしょう。