矯正の話
「矯正痛いからもうやだ。やめたい。」
「将来後悔しても知らないんだから!そん時は自分の金でやりなさい!」
母にそう言われたとき、すでに将来後悔するんだろうなぁという予感があった。そして20歳を過ぎた今、早速後悔が襲ってき始めている。
しかしながら、今あの中学生の、矯正を取り去ってもらうようお願いした、あの時に戻ったとしても、全く意見を変えられる気がしないのだった。
私は当時吹奏楽でホルン吹きをやっていた。世界ギネスに登録されている、一番演奏が難しい金管楽器の、ホルンだ。案の定難しくて、同級生と比べても私はあまり上手く吹けていなかった。なんとなく音が濁っている気がして、そしてそれを、矯正を付けている歯のせいにした。ホルンのマウスピースはただでさえ小さいのに、口をすぼめたら矯正器具が口の中に食い込んで痛い、我慢して吹いたとしても音が悪い。と。
私が嫌だったのは、ホルンのことだけじゃなかった。口にゴツい器具を付けていては可愛くない。思春期の、他人と比べて誰が美人だ、そうでないだと、必要以上に自分の見た目を気にしていた私は矯正を付けた口で思いっきり笑うことができなかった。それがすごく嫌で、我慢ができなかった。
他にも矯正を付けていた子がいたが、ひそかにかわいそうとさえ思っていた。なんてことだよ。
他人と比べるな、気にするな、今我慢すれば後で綺麗な顔で居られるんだぞ。
そんな言葉、中学生の私には効かなかった。
今、痛い。今、上手く吹けない。今、かわいくない。
今以上のことを考えられる大人な性格ではなかった。
途中まで懸命にお金を出して矯正してくれた親には感謝している。でもやっぱり、あの時の自分がダメだったとは思えない。しょうがなかったとしか言えない。今は。
(2020/03/08)
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