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このままじゃ終われない
午前6時起床。
まだ外は涼しさを漂わせている。
目的地の海までは自動車で約2時間。
午前9時までには着かなければいけない。
初めていく場所なので、道に迷ったら遅刻する。
そこは海岸近くにある小屋だったが、2階はおしゃれなレストランだった。
ぼくを迎えてくれた白髪のロン毛をなびかせた男性は、初老に見えるがぼくより一歳、年下だった。
今日のぼくのコーチだ。
そこにはぼく以外に大学生の男性二人、年配の女性二人が集まっていた。
皆、一日体験スクールの生徒になる。
お揃いのベストを渡され、それを素っ裸の上半身に着込んだ。
挨拶もそこそこに、皆は海へと歩き出した。
心細いぼくは皆の後をトボトボとついていく。
砂浜に並べられたボードの上に五人はうつ向けに寝られた。
ボードの上に立ち上がる練習を砂浜でやるという訳だ。
揺れもしない陸の上なら何なく立ち上がることができる。
とにかく立ち上がるタイミングとスピード感を体に覚え込ませる。
海の深さは腰までもない。
よくわからないが、波の大きさは良好とのことだった。
ボードを足に繋ぎ、脇に抱えてぼくたちは海の中へと入っていく。
一つの波に一人、これはサーフィンをやる時のルールだ。
コーチが波を待って一人ずつ送り出していく。
皆、次々に波の中へなぎ倒されていった。
ぼくの番だ。
高さ30cmもない波だ。
コーチにボードを押し出され、ぼくは腹這いの状態から一気に立ちあがろうとした。
しかし立ち上がることすらできずに、背中から海の中へと放り出された。
二度、三度とトライするが、結果は同じだった。
これでは遥々ここまでやって来た意味がない。
水遊びをしに来たんじゃない。
これじゃ帰れない。
コーチに言われたことは、立ち上がるスピードがまだ遅いということだった。
次のトライで決めてやる。
年甲斐もなく闘争心に火がつく。
波はさっきより少し大きい。
しかし選り好みなんてしていられない。
コーチのゴーサインとともに、ぼくは全身の力を両腕に込めて、ボードを押し込んだ。
腕の反力で体ごとボードの上に跳ね上げるくらいに・・・。
「やったぁ!」
やっと立ち上がれたっ!、と思った刹那、また儚くもぼくの体は海の中へ。
半日粘って、やっと波打ち際まで転倒せずにボードを乗りこなせるようになったが、大学生は若いだけに飲み込みが早い。
危なげなく波に乗っていた。
50歳を過ぎたぼくには、さすがにあんな風には乗りこなせない。
こうしてぼくのサーフィン初体験が終わった。
消化不良だ。
こんなままじゃ終われない。
またリベンジしたい。
ちなみに年配の女性二人はぼくと同じように、死ぬまでに一度サーフィンを体験したかったとのことだったが、波に揺られ過ぎて酔ってしまい、序盤戦でリタイアしてしまっていた。
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