赤ちゃんが「熱性けいれん」になった時の話
まだ娘が赤ちゃんだったころ、「熱性けいれん」になったことがある。
熱がどんどん上がり、赤い顔が青くなり、そして娘が大量に吐いた。
ゴボゴボと溢れるように吐いて、体内の中身が全て出てるんじゃないかと思うほどの吐きように、私は恐怖した。
「ひよこクラブ」を熟読していた私は、「赤ちゃんが吐いた時は、吐いたものが喉を塞がないように気をつけましょう」という知識があった。
上体を少し起こし、気道を確保。呼吸を確認。
本当はそんな冷静でもなく、ビビりすぎて「あばばばば!」と怯えて震えながら、彼女のあたまを膝に乗せて様子を見ながら、慌てて救急車に電話した。
事情を話すと「その症状でしたら、かかりつけの小児科に電話して診てもらうといいでしょう」と言われた。
私は電話を切ると、すぐに言われた通り、かかりつけの小児科に電話した。
「医者が昼休みなので対応しかねます。救急車に電話してください」と言われた。
えー!
その間にも、娘はゴボゴボ吐く。
「あばばば、ど、どうすれば‥」
私は汚物まみれになりながら子供をかかえ、泣きたいけど泣けず、恐怖でブルブル震える。
震える子供と、震える私。
汚物まみれだしどうしようもない。
こうなったら、パートナーに車で救急外来に連れて行ってもらうしかない。
私はパートナーに電話をかけようとするが、このとき手が恐怖でものすごく震えて、全然ボタンが押せなかった。
‥私のせいでこの子が死んだらどうしよう!
子供の顔は青から白くなっていて、焦点もあってない。
‥この子、死んじゃうかも!
そう思うと手が震えて、ボタンも反応しない。‥と思ったら、指が汚物まみれでボタンが押せてないことに気づき、服で手を拭いてようやく電話をかける。
「もしもし?」
私は「助けて!」と叫び、何があったか説明しようとする。
ところが‥。
「もしもし?もしもし?なんか聞こえないな。イタズラか?きるわ」
ツー、ツー‥。
その必死になってかけた電話は、無情にもすぐに切られてしまった。
電話に、もしかしたら汚物がついていたのかもしれない。だから聞こえなかったのか。
しかしこれには、絶望した。
‥私はこんなときに、電話もできないのか!
絶望しながら、子供の様子を見つつ、もうどうしようもなくて、ふたたび救急車に助けを求める。
「さっきの者ですが、かくかくしかじかで、こちらに電話するように言われました」
「えー!」
救急のひとも困った様子。
「とにかく患者の容態を教えてください」と言われ、私は娘が白い顔をして震え、大量に吐いたことを伝える。
娘の頬をなでながら、泣きそうになりながら、「どうすれば‥どうすればいいですか!?」と、取り乱しながら助けを求める。
しかし、そのとき、娘と目が合った。
焦点が、あっている。
頬も赤みがもどっていて、なんだかスッキリしたお顔。
しかもおでこを触ると、熱までなくなってる感じ。
「なんか、大丈夫そうになってきました!」
「それはよかったです。念のため時間内に小児科に行って診てもらってください」と言われて、電話を切った。
ありがとう、救急の人。
ご迷惑をおかけしましたが、私はとても救われました。
汚物を片付けて、着替えをさせる頃には、子供はなんとあっという間にいつもの様子に戻っていて、熱までなくなっていた。
さっきまで、目の焦点も合わずに朦朧としていて、顔は紙のように白く、瀑布のように吐いていたのに!?
私は初めての子育てで、知らなかった。
子供は大人だと死にそうに見えているほどのことが、けっこう起こるということを。
大人の「意識が朦朧としている」はかなりヤバいが、子供は熱が出ると結構簡単に意識が朦朧としてる感じになることを。
子供は「熱性けいれん」だった。
ひよこクラブ愛読者の私は、「熱性けいれん」のことはもちろん知っていた。
しかし、それを目の当たりにすると、どう考えても震えているし、危篤状態にしか見えなかった。
本気で子供が死んでしまうと思って、怖かった。
そして周囲はあんまり助けてくれず、自分は頼りなく、恐怖しているだけで、何もしてやれなかった。
子育てで、自分はとにかく、無力だと知る。
子供の「熱性けいれん」。
とにかく怖かった。
何もしてやれない。
だけど、子供は自分の力で、病気を治した。
そして私は、子どもは自分が思うより、けっこう、強いことも知ったのだった。
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