編み目さんの「田中東子と研究不正: 改ざんツイート&改ざん論文 【証拠あり】」を読んで。



以下の記事を読んだ。田中東子さんが最近色々と話題のようだが、ついさっきまでそんな話題は関知していなかった門外漢である。

ただ、気になった点があったので、深夜のテンションで記事を斜め読みしただけの感想を少し。詳しい検証はしていない。
全体として田中東子を擁護するわけでないが。

早速本題。

「前時代からの変化として「純粋な生産/消費というものはもはや存在」しないなどと語ることは、全くのナンセンスである。」———?

編み目さんは、当該記事において、
「前時代からの変化として「純粋な生産/消費というものはもはや存在」しないなどと語ることは、全くのナンセンスである。」
というが、そうだろうか。

まず、件の田中氏の生産/消費に関する記述は、「メディア表象」についての話題に限定されている(氏曰く「このように、一般の人々がメディア表象の消費者であると同時に生産者でもある状況は、「プロシューマーの時代(Prosumer)」と呼ばれるようになった」(編み目さんの記事で引用されている田中論文の箇所の少し前の記述))。
したがって、編み目氏が、「noteを書くために必要なパソコンも電気」等を、生産者と消費者を峻別させているものの例として挙げているのは不適切ではなかろうか。

そして、メディア表象のコンテンツに限って言えば、
「「純粋な生産/消費というものはもはや存在」しない」
というのはあり得る指摘ではなかろうか。

消費者が生産者に近接(混合)していく場合とは如何なる場合だろうか。以下のようなことだろうか。
例えば製作者がSNSの反応を見ながら物語の展開を変性させていく例である。実例はここに列挙するまでもないだろう。
(個人的記憶としては、最近少し前に読んだクィアベイティングについての書籍にその辺の消費者から生産者への影響の例がみられたような。Brennan, J. (Ed.). (2019). Queerbaiting and fandom: teasing fans through homoerotic possibilities. University of Iowa Press.)。
具体的には、SNSでの炎上や、あるいは「オタク」によるクィアリーディング等の反応をSNS・インターネットで受け取って製作陣が展開を調整するなど。
また、宮台真司×東浩紀「ニッポンの展望 #6  2017・秋の陣」1時間27分頃〜においても、既に観客の顔が見えるようになってきた(ダイレクトに反応が返ってくるようになった)ことによって、メディアが独自の発信をすることが難しくなってきたと指摘されていたと記憶する(https://x.com/ri70402631/status/1765113595652874376)。

これらのことのみでも、消費者から生産者への一つの混合の現状を示しているように見える。田中やRitzerがこのような例を想定していたのかは、当の論文を読んでいないので分からないが。

(20241213,8時頃追記) <<Ritzerはマルクスを引いているが、マルクス的な生産/消費論はここで如何なる意味を持つのだろうか。ちなみに、軽く検索すると、コンテンツのファンのProsumer性について書かれたっぽい論文もあったが読んでいない(Derbaix, M., Korchia, M., & Padiou, M. (2023). Fans as Prosumers: Labour of Love. International journal of arts management, 25(2).
Chicago)>>

尚、生産者が同時に消費者でもあることは、ここで論証するまでもなかろう。

したがって、
「「純粋な生産/消費というものはもはや存在」しない」
ということは少なくとも「全くのナンセンス」には思えないし、
さらに、斯様なプロシュームの状況は、SNS、インターネットによって大いに加速されているといってよいであろうから、
「前時代からの変化」と表現することも、妥当だと思える。

たしかに、
「(多少なりとも消費を伴わない)純粋な生産や(多少なりとも生産を伴わない)純粋な消費というものはもはや存在せず」
という断定調のフレーズは大袈裟に思うが、論旨は理解できる。

Ritzer論文との軽い対照

ここで少し視点を変える。
Ritzer論文をちゃんと読んだ人もいるようだが(https://twitter.com/uncorrelated/status/1867196033324949994)
私は読んでいないので、「英語論文の翻訳引用において、原文にない語を加え真逆の意味へ改ざん」したかどうかはよくは分からない。

ただ、編み目さんの記事にあった、Ritzer論文の頁を軽く読んでみた。
そうすると、確かに、件の引用箇所に「前時代からの変化」というニュアンスはないようにみえる。しかし、ここで翻って考えてみると、「もはや」というのは「前時代からの変化」を意味するものではなかったと善意に捉えることもできるかもしれない。
というのも、ちゃんと検証してはいないが、
「これこれこういう理由があり、こういう理由もあり、これはもはや〇〇である」
というように、単に強意の意味で用いることもあるように思える。
が、普通に読めば、事情が変わったことを示唆する機能を果たしているように思えるので、(故意か過失かは別として)ミスリーディングを招くよくない翻訳であるようには思う。

ただ、もう一点気になる。これまた、Ritzer論文はちゃんと読んでいないので確かなことは言えないが、Ritzerは以下のようにも述べている(編み目記事に添付の頁内)。

The concepts of production and consumption were of questionable utility even in the heydays of producer and consumer capitalism, but they are clearly zombie concepts in prosumer capitalism.

どうだろうか。この記述からすると、Ritzerがproduction and consumption概念の有用性について、時代の遷移によって評価を変えているようにも思える。
(20241213_8時頃追記) <<social webの発展でprosumer化が加速するという見方は一般的なものなようにも思う(The Shift from CONsumers to PROsumers)。>>


また、次の箇所について。

This is especially clear in work on the media, as well as on, among other domains, brands and branding.

このRitzerの記述はやはりメディア産業について注目しているように見えるが、やはり当該頁だけ読んだだけではよく分からない。

終わり

以上、斜め読みして、気になった点について。
繰り返すが、全体として田中東子を擁護するわけでないし、
一連の問題についても全く関知していない、ただの通りすがりである。
編み目さんの記事の本旨であろうところの特定の範囲の学者の問題が多いことについても、ソーカル事件以降、基本的には同意している。
詳しい検証はしていない。





(20241213,8時頃追記) <<同様の論点について説明するブログが投稿されていた。田中東子氏のRitzer (2015)"Prosumer Capitalism"理解について。Ritzerの論文についても説明されている。>>

(20241213,9時頃追記) <<江口聡氏も本件についてちょくちょく反応飛ばしているようだ。https://togetter.com/li/2479899 >>

(20241213,18時半頃追記) <<<編み目さんにコメントいただいた。応答に代えて追記。
「メディアに限定しているから問題ないのでは?」とか、
ナンセンスかどうか、とかは、たしかに田中氏の研究不正の有無(引用の適切さ)に決定的な要素ではないでしょうから、ここで議論する意味はあまりないですね。専門家もこの範囲で文章結構書いているようですし(https://en.wikipedia.org/wiki/Prosumer )。

 細かい傍論の異論は抜きにすると、私目線、批判の大要は以下のように表現できると思いますので、編み目さんの記事の論旨は理解できます。
 すなわち、引用箇所のRitzerの記述は、時代を問わず普遍的な状況について述べるものである。にもかかわらず、田中東子は今日のSNS特有の問題であるように引用文を紹介し、「もはや」という語を脚色のため挿入し、印象操作をしているようにみえる、と
 
ただ、田中の立場で言い訳も可能に思う。例えば
①「もはや」は強意として入れたのみ。
②Ritzerの引用はたしかに、「今日、コンテンツが〈生産-流通-消費〉されるプロセスについて、次に説明している」という枕詞で紹介したが、しかしRitzerの記述は一般的な生産/消費関係について述べるものであり、それを「今日、コンテンツが〈生産-流通-消費〉されるプロセス」を説明するものとしても誤りではない。つまり私は、「(過去含む)今日、(例えば)コンテンツが〈生産-流通-消費〉されるプロセス」を説明するものとしてRitzerの引用を行ったのみである。言葉足らずな部分は過失である。
③「SNS の言説空間に誰もが情報の生産者兼消費者として参入することによって、今日のメディアは社会におけるあらゆる領域をシームレスで地続きの状態へと変化させつつある。」という部分は、引用文から発展させて私が論述した箇所なので、Ritzer引用から離れても問題ない。
④時代によって、生産/消費の混合の度合いが変わるということはRitzerも認めていることであって、今日のSNSの普及で生産消費の環境が変容するという全体の田中の論述が、Ritzerの主張と相反することもない。

とか?厳しいかな。
まあでも感覚としては正直そんなに問題にはならないで終わりそうな感じもする。ただ、学部生がやりそうな脚色だよなとは思わなくもない。レポート書くときに、曲解してパラフレーズすんなと耳が痛くなるほど言われたものだが。
 また、軽く調べただけでも、もっと適切で田中の主張したいことと符合するような箇所も、他論文も多数ありそうな感じなのに、何故あの箇所を選んで引用したのか。まあ、誤訳があるとしても過失だろう。別に無理筋の論証をしようとしているわけでもない。あるとすれば怠惰な執筆姿勢から事故が生じた形ではなかろうか。積極的に意図的な訳語を挿入して誘導しているというように見れば、過失より悪質性が高いというべきかもしれないが。>>>


(20241215,12時頃追記) <<<<ところで、私も人文系の学術書とか論文とか読んでいた時期もあったが、感覚的には、一般にSNSの声なるものの紹介の際にはURLがついていないような気がする(ちゃんと検証してない)。その良し悪しは置いておくとしても。プライバシー等何か配慮があるのかもしれない。したがって、URLが示されていないことは直接に研究倫理違反の存在の推認材料にはならないような気もする。もっとも、SNSの投稿の取捨選択に意図的な操作があったり、改変があったりすれば、それはそれで別問題として研究倫理違反の推認材料になるだろう(ただ確かにURLや魚拓が示されるか、あるいは量的データが示されるなどしなければ検証可能性も担保できないのかもしれない)。>>>>

(20241217,5時半頃追記) <<<<<以下のような見解もあった。
「まああれくらいの誤訳というか訳の問題はあまりにもよくあるので、研究不正ではなく、せいぜい望ましくない研究慣行ぐらいかなあ。人文系の慣行としては、それでさえないかもしれない。ナイストライ!とか。」(https://x.com/eguchi2023/status/1867193802160812439)>>>>>

(20241225_19時頃追記)<<<<<<ゲンロンの番組「今週の人文ウォッチ#3」でも言及されていた(「【無料放送】今週の人文ウォッチ#3 ラーメン動画の相次ぐ炎上から“破れないストッキング”問題まで - YouTube」https://www.youtube.com/watch?v=oL6Dvx6lnpg )。
 概ね植田氏は田中東子擁護側、山内氏は自制を促しながらも批判派という印象だ。尤も、植田氏はそれほどしっかりは追っていないようであったし、反対に山内氏はまさに専門分野であることもあり、しっかりチェックしているようだったという違いもある。>>>>>>>

(20250101_9時頃追記)  <<<<<<<2024年末より、田中東子氏は、法的措置を匂わすような投稿をX(twitter)上で行いはじめたようである。これは、X(twitter)上での田中氏への人格攻撃が急増していることへの対処に思えるが、法的措置の対象の中に編み目氏の研究不正の指摘が含まれるかどうかは明らかでない。もっとも、編み目氏の記事に言及するツイートに対して魚拓をリプし、威嚇するようにみえるツイートはあった( https://x.com/enfanteest72/status/1872596471499182504 )。
 尚、Ritzerの文の訳語に関する編み目氏の指摘・批判については、山内萌や江口聡氏といった研究者も、概ねその批判の一定の妥当性を認めているようにみるが(いずれも上述)、田中氏からの応答は今のところないし、擁護も見当たらない(植田将暉はやや擁護している。上述)。
 他方、ツイートの引用方法についての編み目氏の指摘は、専門家からは注目されていないように思う。
 ちなみに、研究者間の論評と名誉毀損の成否については、以下の裁判と評釈があった(星野豊. (2009). < 民事判例研究 874> 研究者間の論評と名誉毀損の成否-社会的評価の低下がないとして名誉毀損が否定された事例 (横浜地方裁判所平成 19.3. 30 判決). 法律時報, 81(9), 114-117. https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/19418/files/%E6%99%82%E5%A0%B1_81-9.pdf )。>>>>>>>


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