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素晴らしい"第二の人生"の幕開けを描く「ダンサーインParis」感想・レビュー


現在、WOWOWオンデマンドにてフランス映画の特集がやっておりまして、前々から気になっていた作品「ダンサーインParis(2022)」を観たので感想・レビューをお届けします。

原題「EN CORPS」

・バレエ×コンテンポラリーダンス!異色の組み合わせ

・若き女性の人生の転機を通して描くセカンドキャリアへの挑戦

・現役のプロダンサーが集結した至極のダンス映画


メガホンを取ったのは「パリのどこかで、あなたと」「おかえりブルゴーニュへ」等、故郷フランスを舞台に甘酸っぱい青春や温かい人間模様を描くセドリック・クラピッシュ監督

セドリック・クラピッシュ監督(ゲッティイメージより)


彼自身、長年オペラ座に通い詰めており、オペラ座・バレエを舞台にした作品も撮っている熱烈なバレエファンの1人でもあります。

そんな今作は、バレリーナの主人公が怪我によりバレエの道を諦めかけた先に見つけた、新しい人生の門出を描く物語。

主人公のエリーズ役には、実際にパリ・オペラ座バレエの正式団員であるマリオン・バルボーが映画初出演にして初主演。

主演マリオン・バルボー

クラピッシュ監督からの誘いで約500名以上もが参加したオーディションで、見事選ばれた注目の女優です。

主人公・エリーズ(マリオン・バルボー)

挫折から人生の中に光を見出していく希望の物語だけでなく、バレエの魅力やコンテンポラリーダンスを通じて表現する楽しさを伝えてくれる作品でしたので、ポイントに分けてご紹介していきますね。

①冒頭15分間の圧倒的なステージ

映画は約15分間、ほぼ台詞なしのバレエシーンから始まります。
プログラムは「ラ・バヤデール」。日本で言う舞姫の物語にあたる演目です。
エリーズ演じるニキヤ(舞姫)が恋人に裏切られる悲恋の物語で、物語と重なるように本番中、恋人が舞台裏で団員のバレリーナと浮気しているところをを目撃します。

衝撃を受けた中で踊るエリーズ。彼女の瞳は動揺で震え、その震えが舞台で演じるニキヤの心情と重なり、今にも壊れてしまいそうな脆さが踊りに出ていました。

胸が震わせられるほど悲しくも美しく、私たちもオペラ座でバレエを目にしているような圧巻のステージから映画は幕を開けるのです。

主役のマリオン・バルボーは演技初心者でありながらも、オペラ座バレエのプルミエール・ダンスーズ(オペラ座・バレエでの最高位の階級)としてバレエ界担う次世代のバレリーナということもあり、映像からもしっかりと伝わる表現力の持ち主。

女優としての彼女の可能性と、エリーズのこの先の人生に待ち受ける運命を真摯に見つめてゆきたいと感じさせるオープニングに心を打たれます。

② コンテンポラリーダンスとの出会いから築いていくセカンドキャリア

動揺の中でステージに立ったエリーズは案の定、不注意で転び、足に怪我を追ってしまいます。エリーズの怪我の状態は思っている以上に重く、暫くの間休養を強いられることになりました。
エトワールへの道を諦めなければならない可能性が出てきたエリーズは、絶望の中で新しい生き方を模索していきます。

エリーズは、同じく怪我が原因でバレエを引退した旧友のサブリナとコンタクトを取ることにします。
そんなサブリナは引退後、女優を目指しながら様々な仕事を掛け持ちして生計を立てていました。

苦労しながらも自分らしくセカンドキャリアを築こうとする彼女の姿勢に刺激をもらったエリーズは、料理人であるサブリナのボーイフレンドとともに、ブルゴーニュにあるレジデンスを訪れ、そこで短期のアルバイトを始めます。

そんなある日、バレリーナ仲間の紹介で一度出会ったコンテンポラリーダンサーたちが練習合宿でレジデンスに訪れ、偶然の再会を果たします。

ある日、エリーズはコンテンポラリーダンスのチームのコーチから、「いつでもダンスに参加していいよ」と声をかけられます。
そこでエリーズは、踊れない自分の境遇やバレエを諦めなければいけないかもしれない状況から、善意の言葉に対して苛立ちを覚えてしまいます。

そんなエリーズの様子を見たレジデンスを営むジョジアーヌという女性から「あなたは運が良かった。あなたは才能に恵まれていて、あなたが思う順調は誰かの特別でもある。良い機会だから参加してみるといい」とアドバイスを貰います。

ジョジアーヌ(左)とエリーズ(右)

その言葉でエリーズは、見学や練習へ参加をしていき、段々とコンテンポラリーダンスの魅力にのめり込んでいきます。

自分の意思と反して、ずっと追っていた夢や、留まりたい場所を諦めなければいけなくなった時に、どうしても縋りたい思いや悔しさで一杯になってしまうのは誰しも同じ。元いた場所が光り輝いて見えるものです。
しかし、エリーズのように、コンテンポラリーダンスというバレエとは違う表現の世界を知り、刺激をもらえる仲間たちと出会い、彼女なりに新たな生きがいを見つけてゆく。

人それぞれに転機やきっかけは訪れ、また新しく夢や希望、熱意を持てる仕事に出会えることを、この映画は教えてくれるのです。

③安定を望む父と挑戦に挑む娘の親子関係

父・アンリと娘・エリーズ

この映画では、表現の世界で夢を追う娘と、娘に安定した職へ就いてほしい父親の関係も描かれています。
エリーズの父はもともと、エリーズに対して表現の世界ではなく法律等、安定性のある仕事をするよう進めてきました。
怪我をして実家に帰省した際も、車の中ではバレエの道は諦めて、法律を学べと伝えてエリーズの口論喧嘩になっています。

娘には将来的に安定している仕事に就いてなるべく苦労して欲しくない気持ちは、きっとどの親にもあるでしょう。
そんは父親の気持ちもつゆ知らず、エリーズはバレエからコンテンポラリーダンスにのめり込んで行くうちに、発表会に出場することも決まります。
そこで練習室に父親を呼び、魅力を伝えようとしますが、独特な世界観のコンテンポラリーダンスに若干引かれてしまいます。

それでもエリーズは父を発表会に招待します。
父のアンリは、エリーズが舞台上で踊り、輝く姿を見て、涙するのです。

幼い頃からバレエにおいて最高峰である主役のエトワールを目指して頑張ってきた我が子の努力を知っているからこそ、コンテンポラリーダンスという新たな世界の中で彼女なりの楽しさや生きがいを見つけた姿がそこにあった。
娘の生命力溢れる力強さが踊りに現れていたからこそ、流した涙でした。

きっとその涙には、娘がいるべき場所を悟るとともに、これからも表現の世界で輝く娘を見守りたいという想いも込められたものなのではないかと。

子を想う親の心配な気持ちと、子が抱く人生の展望はどうしても平行線でお互いに分かり合えずぶつかることがどの親子関係にも多いと思います。

それでも、大事な子どもの選ぶ道を尊重したアンリの姿には心打たれますし、自分が親の立場になったら、こんな親でありたいと思わせられる姿でした。

自然に訪れる出会いやきっかけに人生のヒントがある

絶望の淵に立たされたエリーズも、身近なところから第二の人生の扉を開けるきっかけを見つけていきました。

自分の居場所を失った人間は、どうしても"何者か"にならねばと試行錯誤をし、疲弊していくことが多いですが、人生は結局、新たな出会いときっかけの繰り返しで成り立っていることをこの映画は教えてくれています。

まず、素敵なチャンスと巡り会うためには、エリーズのように無駄なプライドを捨てること。そして、自分の興味があることに全力で向き合うこと。
何者かになれず焦りを感じている人や、キャリアチェンジを考えている人、人生を見つめ直したい人が観たときに、それぞれ大きな気づきとリラックスを与えてくれる作品だと思います。

映像も、冒頭バレエシーンから、各ロケーション、エリーズの日々の映し方、などシーン毎に映像が違う角度からアプローチされていて、挑戦的、それでいて統一性がある芸術性に富んだものでした。

主演のマリオン・バルボーを始め、トニー賞で最優秀振付賞にノミネートされた有名なコレオグラファーのホフェッシュ・フェクターも、コンテンポラリーダンスチーム率いるコーチ役の本人役として出演しています。

バレエや、コンテンポラリーダンスでそれぞれ実力派のプロ集団をキャスティングし、スタントを使わずフェイクではなくリアルなダンスを届けてくれているのも、この作品の素晴らしいところです。

バレエ映画といえば、私はやはり1人の少年がバレエの楽しさにのめり込み、バレリーヌとして成長する「リトルダンサー」が大好きです。

リトル・ダンサー(2000)

この「ダンサーインParis」も「リトルダンサー」と同じで、自分の知らない世界にのめり込み、新たな生きがいを見つけていく部分が通ずるなと感じていました。

表現の世界の面白さと、人間が新しいものや人と出会い、一喜一憂をして成長していく人生の面白さを観れる作品でしたので、気になる方は是非、ご覧ください。

レビュー動画も上げておりますので、よろしければ合わせてご覧ください。


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