短編小説「あるとき月が目にした話によると」第二夜
第一夜↓
第二夜
突然の雷雨に耐えきれず、窓がガタガタと音を立てはじめました。道という道には大きな川ができ、人々が大急ぎで戸や窓を降ろした頃、月は呑気にわたしの部屋へやってきました。てっきり今晩は来ないだろうと思っていたのですが、どういうわけか、ひょっこり雲間から顔を覗かせたのです。不思議なこともあるものですね。それからすぐに彼は話をしてくれました。
「こんな日にまでここへ来たのにはちゃんとわけがあるのです。私だって勝手気ままに語り歩いてるわけではありませんからね。さきほど目にした光景が、あまりにも滑稽でたまらなかったのです。そうすると誰かに話したくてたまらなくなるでしょう。そこでふとあなたの顔を思い出したというわけです。ところで、どうして人間は互いを貶める真似をするのでしょうか。あれにはどんな意味があるのでしょうか。私はこの世でただ一つの存在ですから、あんなふうに罵りあったことはありませんけれども、それがどれほど愚かな行為かということくらいはわかります。傷つけ合うことに喜びを感じる生き物なんて、いないはずですからね。ちなみにそれはこんなふうだったのです」
近くで大きな雷が落ちました。ついで雨も強まってきました。それはまるで雷と雨が互いを罵り合っているかのようです。か細い月の声は、とうにかき消されてしまいました。けれども姿はぼんやりでありながらもよく見えていましたから、じっと雷雨が収まるのを待ったものです。そしてついに月の声が聞こえ始めました。
「さて、どこまで話していましたかね。まあいいでしょう。ところであなたはどうお考えでしょうか。さきほどの男と男のやり取りについて。お酒を流し込み、あれほどまでに酔っ払って自我を開放して罵り合うことに、どんな意味があるのでしょうか」
とうとう雨は止みませんでした。そして朝目が覚めたときには、当然ながら月は帰っていました。近くの公園の小さな木の枝は、無残にもへし折れてしまったようでした。
残念ながら月が見たという男と男のやり取りの細部は聞き逃してしまいましたが、人間として生きてきたわたしは、特になにも疑問を抱くことはなかったのです。そんな光景なんて、日常茶飯事ですからね。つまり、わたしが月に答えを提示するとするならば、こういうことでしょうか、それが人間という生き物の宿命なのです、と。
第三夜↓
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