![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161894285/rectangle_large_type_2_a4c27859d540b39bd033d794df901e1f.png?width=1200)
エッセイ「感覚」10.突き刺さる
早朝に目が覚めると、カーテンの先には薄ら明るい空が広がっている。それを見つめていると、窓を開けて朝一番の新鮮な空気を吸いたい衝動に駆られる。その気持ちに身を委ねてガラリと窓を開け、大きく息を吸い込む。ああ、いま私はこの世界で“今日”の空気を一番最初に吸い込んだ人間に違いない───。
気づけば全身鳥肌、肺も痛い。優雅な朝なんてどこへやら。急いで窓を閉めて、家の中を暖める。着る毛布を羽織り、足にはもこもこソックスまで装着。そこまでしてやっと鳥肌は治まった。
夜も更け、さあもう寝ようと布団に足を忍び込ませた瞬間に全身に走る、あの冷たさ。防寒対策バッチリの姿でドアを開けた瞬間に襲われる空気の痛み。秋が深まり、冬がそろそろ出番かなと顔を覗かせる季節に、この“突き刺さる”はやってくる。
特に雪が降り始めたらこの痛みとはしばらくお別れできない。寒いとか、冷たいとか、そんな次元を超えて、とにかく痛い、刺さる、逃げられない。部屋を暖めれば暖めるほど、その温度差、気温差で突き刺さる痛みは増すばかり。
冬に雪の降らない街へ住み始めて、もうすぐ八年。それでも未だに雪がなければクリスマスを過ごした気分になれないし、年越しをしたとも思えない。どんなに寒くても、いつからトレンチコートをやめてダウンコートにマフラー、手袋をつけていいのかわからない。
そんなとき、布団の冷たさに足を引っ込めたり、朝の空気に鳥肌が立ったり、そよ吹く風に痛みを覚えるようになると、ああ、ちゃんと今年も冬が来たんだなあ、とちょっぴり嬉しくなったりする。それでもやっぱり雪のない冬は寂しいし、けれどスニーカーで大地を踏みしめられる冬は、一度味わうとその楽さはもう、誰にも譲れない。
エッセイ「感覚」マガジン
エッセイ「徒然なる日々の瞬き」マガジン
人気のエッセイ「赤毛のアンのように、そして読書休暇を」
そのほかのエッセイはこちらから🌿