短篇小説「へそくり穴」
町外れに住む少年が言うには、あの家にはへそくりがあるそうで。大きなデッキの下に、直径1フィートあまりの穴を掘るとそれは見つかるのだと言います。
その噂は瞬く間に町中に広まり、町はあの家の話で溢れかえりました。なんといってもあの家は大金持ち。それはもう町人皆がこぞってそのへそくりを見つけだそうと躍起になりました。
そうして十人目の挑戦者があの家へと向かいました。青い三角屋根に大きな樹が四本。庭にはゆらゆらと揺れるハンモックがかけられ、デッキに置かれた丸いテーブルにはいつも花が飾られている。これがあの家の正体です。
十人目の挑戦者は簡単に見つけられると言いました。これまでの九人の挑戦者はというと、とうとうへそくりを見つけることができず、諦めて帰ってきていたのです。九人からどれほど大変な道のりであったかを聞いても、十人目の挑戦者は簡単だと言い張りました。
彼はあの家の特徴をしっかりと暗記し、日が昇るのと同時に軽い足取りで出掛けてゆきました。太陽がこの世のすべてを照らし、そして、山の奥へと身を潜めてもなお、彼は帰ってきませんでした。
次の日がやってきても、またその次の日がやってきても、彼は姿を現しません。これまでの九人の挑戦者も心配になってきました。彼らは皆、その日のうちに帰ってきていたのです。
結局十人目の挑戦者は何も見つけることができないまま、すっと静かに帰ってきました。もうずいぶんと日が経っており、彼の容姿は様変わりしていました。きれいに整えられた短髪に、鍛え抜かれた体が自慢だった彼は、ずいぶんと痩せこけ、顔は無性髭に覆われていました。変わり果てた姿はあっという間に町中に広まり、こんな姿にはなりたくないと、以降誰一人として挑戦者は現れませんでした。
十人目の挑戦者は何ヶ月もの間、挑戦し続けたようですが、とうとう誰一人としてあの家を見つけられた者はいなかったのです。
それから何十年か経ったある日、町外れに住む少女は言いました。あの家にはへそくりがあると。あの家は青い三角屋根に大きな樹が四本。庭にはゆらゆらと揺れるハンモックがかけられ、デッキに置かれた丸いテーブルにはいつも花が飾られているのだと。
その噂は瞬く間に町中に広まり、町はあの家の話で溢れかえりました。なんといってもあの家は大金持ち。それはもう町人皆がこぞってそのへそくりを見つけだそうと躍起になりました。
とうとう十人目の挑戦者が現れました。九人目まではというとへそくりを見つけられず、帰ってきておりました。それでも誰も気づきません。あの家がかつて少年によって持ち込まれた噂と同じであることを。あれほどもう探さないと皆が言っていたというのに。こうも簡単に忘れ去られてしまうとは。
そうして新たな十人目の挑戦者は出かけてゆくのです。簡単に見つけられると豪語して。
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