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同人デザインは解釈バトルだ!〜小説本の表紙ができるまで〜

 こんにちは。デザイナーです。
 まずはこちらをご覧ください。

筆者の同人活動用垢で採ったアンケート


 この結果を受けて、デザインの小技や表現の仕方よりも設計のプロセス(考え方)を発信した方がいいなと気づきました。

ここから実例の紹介まですこし長いので、
実例だけ読みたい方は目次から【同人デザインとは解釈バトルだ!】へ飛んでくださいませ。



本編の前に

「デザイナーなんだから理屈とかじゃなくて見た目のこと教えて」
「小難しいことはいいから雰囲気いい感じになる配色とかフォントとか紹介して」

 そんな意見もあるでしょうが……いやです!

 みなさんが求める見た目の話、雰囲気良いものをつくるための小技というのは、インプットの質と量次第でいくらでも手数を増やせます。

 Pinterestやグーグル画像検索でちょっと検索したらすぐ出てくる情報

 SNS上でデザイナー垢の多くが発信している雰囲気・見た目重視のTIPS

 など、わたしよりも断然センスが良い先人がたくさん発信しています。じゃあわたしがやらなくてもいいよね!

 そういうわけで、デザインを構成する要素を詰め込む前に考え方を発信した方がよいと考えました。

 実際のご依頼を実例とし、どう考えたらいいのかのプロセスを順次発信して行こうと思います。(ご依頼者様にnote掲載の許可はいただいています)

 また、二次創作の性質上原点となる作品と扱うキャラクターについて触れざるを得ないのですが、ジャンルによっては公に発信してしまうことに不都合がある場合も考えられますので

 原作に触れる部分(具体的には実例の部分)については期間限定で全文公開して、一定期間が経過したら一部を有料記事に移行していくか、もしくは非公開にする
 というスタイルをとらせていただく予定です。
 公開期間は1〜3ヶ月を検討しています。


初めましての方のために自己紹介です。
Rinne Design WORKSは、↓のような信条でクライアントの皆様の表現活動を応援しています!詳しくは自己紹介の記事をご覧ください。

「作品と作者さまが作品を通してどのような気持ちを持っておられるのかを解像度を上げてからご依頼に取り組む」
(中略)
そうしないとお客様が満足する出来を担保できないので、お客様には多少面倒をかけてしまっているかもしれませんがこのやり方を採用しています。

note:「輪廻を信じています。|自己紹介と活動理念」より抜粋

ここから実例の紹介です。

【同人デザインとは解釈バトルだ!】vol.1
-表紙デザインのプロセス解説-

今回実例として紹介させていただくのはこちらです💁‍♀️

【概要】
発行 すいびじうむ様
→Xのアカウントはこちら

ジャンル・カップリング・傾向
ポケモン(以下pkmn)/アオカブ(以下A×K)/オメガバース/R-18/小説

本のサイズ・ページ数
A5/120p

1- 聞く👂

 ご依頼の段階でお客様にヒアリングをしています。
 以下は教えていただいた情報の中で、デザインを考えるポイントにした回答です。

・タイトル
「Two of us」

・デザインを考えるときに入れて欲しい要素「ゆらめく夕暮れのイメージ」

特殊加工の提案について
 「箔押しの提案をお願いしたい。タイトルロゴの提案も併せて頼みたい。」

・作品傾向
 「オメガバース。紆余曲折の末に結ばれるふたりの話

こちらを把握した上でpixivで公開なさっている本編を読みました。

2-読む👀

 前提として、表紙デザイン・タイトルロゴデザインのお仕事を頂戴する時には
 必ず作品のあらすじ・プロット・可能であれば本文を読ませていただいています。いずれも提供いただけない場合は品質を担保できないのでお断りしています

 初対面のお客様とのお仕事ではどのような活動遍歴を持っておられるか、作風や性癖はどうか、自分の創作でどういう気持ちになって欲しいのか……といった部分も知りたいので、可能であればSNSアカウントや過去作も拝見します。(無理に開示しろとは申しません)

 今回はご依頼くださった方が知人であることから過去の作品や作風についてはよく知っているので、本にしたいという作品だけ拝読しました。

 初めましてのジャンル・カップリングでしたが、作品を拝読した結果あまりの良さに床を転がりました(ガチ)。
以下あらすじ。

「貴方には運命がいないのよ」
ベータであるカブには、幼い頃、オメガの少女から向けられた呪いのような言葉がある。
恋をせず、トレーナーとして生きてきたカブ。そんな彼に愛を告げたのは、自分に最も縁遠いはずのアルファの男だった。
「普通の恋がしたい」 
己のアルファ性を厭い嫌うアオキ。そんな彼が出会った、カブという唯一の存在。意識し合う二人と、カブにせまる魔の手…!
アオカブのオメガバース物語がここに始まる。

裏表紙より抜粋。

 あらすじが天才。
 はちゃめちゃにエモい。めちゃめちゃ最高です。

 読み終えた直後にお送りした感想はこちらです。

作品拝読しました……!!
自立したふたりがバース性に飲まれることなく
「わたしたちふたり」で生きていくことへの願いと決意を感じる最高のお話でした……

筆者が作品を拝読して一発目の感想

 この段階ではデザインに必要な要素が掴めていません。
 初めてお話に触れた時あるあるだと思いますが、ただ情緒を殴られるばかりで思考が感情に追いつかず作品にとって大事なことを見落としていがちなので、何度か読み返します。

 読み返して、ストーリーの大筋をおさらいすることと、キャラクターの関係性や背景についての理解を深めていきます。
 分からないことは調べたり原作に触れたりします。ゲームをプレイするのは難しいので今回は「薄明の翼」を履修しました。キャラクターが生き生きしていてよかったです!

【調べてわかったこと】

  1. ふたりはジムリーダー

  2. それぞれの手持ちポケモンは
    A→ひこうタイプ
    K→ほのおタイプ

  3. タイトルの意味
    Two of us=「わたしたち2人」



3-1 コンセプトを決める💭


 ヒアリングした内容も振り返りつつ、わたしなりにお話をまとめます。

  • バース性に関係なくKを愛したアルファのAがKに存在する心の縛りをほどき、紆余曲折ありながらも”運命”を共にするはじまりの話

 まとめ方は人それぞれあると思います。わたしなりの解釈はこんな感じでした。
 これをもとに色々考えて「解放」というコンセプトをご提案しました。


3-2 デザイン表紙の役割✍️

 冒頭で記載した通り今回の小説はA5/120pの大ボリュームです。
 文字数に換算したら10万字近く書いておられることでしょう。(すごい!)愛のこもった作品なのだとよく伝わりますよね。

 実際に読んでみると、オメガバース性に翻弄されてしまいそうになりながら「自分と相手」を尊重して、ひとりの人間として愛し合うA×Kを見ることができます。本当に良かったです。まじでみんな読んだほうがいい。

 一方で、小説形式の作品は熱が入った作品であればあるほど、

 初見の読者がどんな話か?
 自分の好みに合っているか?

 が一見して判別が難しい側面があるのも事実ですよね。
 世の中には、素晴らしい推しカプ小説なのにも関わらず
 ページ数が多い=重厚な感じがする、どんな話なのかがわからないので手を出しにくい……など
 さまざまな意見で手に取られる機会を逸している作品が少なくありません。これに悩まない字書きはいないでしょう。

 漫画やイラスト集なら作家さんの絵柄や作風が表紙でなんとなくわかるのでページ数が長くてもあまり問題がなく
「役割」とか難しいことは抜きにして作品全体の雰囲気や絵柄が魅力的に見える配色をするくらいで考えることは少ない(その分表紙が華やかに見えるように凝ったこともするので手を抜いているわけではないです!)のですが

 小説の場合は目を引く見た目であるかどうかよりもどんな話なのかがなんとなく伝わる表紙である方が、読者の「読みたい!」にコミットできるとわたしは考えています。

 そういうわけで、小説におけるデザイン表紙の役割は

 この本を読むとどんな経験を得られるか
 =どんな感情が大きく揺さぶられるか

 を読者に伝えることだと肝に銘じて制作しています。


3-3 カタルシスはどこにあるか💫


 さて、散々抽象的なことを言い続けてきましたがいよいよ作品に落とし込んでいきます。
 どんなお話だったか振り返ってみましょう。

  • バース性に関係なくKを愛したアルファのAがKに存在する心の縛りをほどき、紆余曲折ありながらも”運命”を共にするはじまりの話

 こちらを元に、このお話でどんな経験を得られるのか? を考えていきます。

 それぞれ心にしがらみを抱えて生きているふたりが紆余曲折を経てしがらみを解消する。
 =未来への希望を感じるお話

どんなところに未来への希望を感じる?
 =しがらみから脱却して愛が成就していくところ

なぜそう感じる?
 =長年の思い、縛られた考え方を乗り越えることでふたりは前を向いて歩いていける予感がするから。

【もっと詳しく】
 特に物語の序盤〜中盤にかけては甘々な恋愛模様ではない。
 たくさんの思いが交差して、この物語の着地点はどこになるのか気になる!という思いにさせておいてからの正統派ハッピーエンドに帰着する構成は「抑圧と解放」の対比と言える。
この対比が読者の心を揺さぶり、最終的に未来への期待を強く抱かせる読後感を生んでいるのではないか。

では、読者にとって印象付けるのは何であるべき?
未来への期待に溢れた読後感
 →特に、キャラクターの抱える心の悩みやしがらみからの解放

 コンセプトの片鱗が見えてきました。
 これらをひと続きの文章にすると、デザイナーとして何を目指すべきなのかがわかってきました。

「解放感」を全面に押し出した光あふれる表紙にして読者の気持ちを高める。

 ことを目標に設定して紙面作りに着手します。

4-1 アイデアを描く🖌️


 コンセプトが見えてきたら、それを実現するにはどうしたら良いかを考えます。ビジュアルを考える時間が一番好きです。

 「解放感」「未来への期待」で
 真っ先に思い浮かんだのは光あふれる青空でした。

当初送ったラフ。この時点ではいったんヒアリングのことを忘れてアイデアだけ詰めてます。


 【なぜ空なのか】
 理由はいくつかありますが、もっとも大きいのは原作が広大な世界観の上に存在しているお話だからという点です。

 ただ推しCPの絡みを書くだけの小説なら世界観まで考える必要はなかったと思うのですが、作中ではぽけもんとのふれあいが非常に多く、描かれる一つ一つのシーンでぽけもん世界の解像度が高いので、
 原作が持つ「本当にこんな世界があるかもしれない!」と思わせるくらいの力強いリアリティが必要だと判断しました。(後述するタイトルロゴにもかかわってきます。)

 以下は参考にした公式のキービジュアルや映画ポスター等

世界観理解するためにyoutubeで総集編見ました。よかった…


 全体の方向性が決まったら、次に何が必要かを精査します。
 具体的には、ラフを見返してアイデアをまとめていきます。

4-2自問自答🤔

自分のスキルや確認事項の抜けが無いか、一度冷静になって考えてみることで情報の整理ができます。
今回ラフの段階で考えていたのはこちらです。

  1. この紙面で本当に解放感を出せる?

  2. 本当に世界観をイメージさせることに成功する?

  3. 作品にふさわしい表紙になる?

  4. クライアントの意向に沿ったものに修正していける?

4は置いといて、1〜3を実現するためにはどうしたらいいかを考えてみましょう。

前述の当初送ったラフ。

1.空だけの絵面に解放感があるか
 素材選びが重要。
 ラフのような空では雲が多すぎて抑圧感の方が強い気がする。
 →雲の主張を抑え、空の色が見えるような写真素材を使用する。

2.世界観をイメージさせることに成功するか
 これでは不十分。
 実写の素材を配置しただけではリアリティが勝ってしまい、世界観を表現しているとは言えない。
 →ぱっと見実写だけどポイントになる部分が合成やCGだと分かるようにする。良い意味での「作り物感」を残したい。

 pkmnらしさをもっと強く出したい。
 →pkmnについての知識が足りていないので調べることに。次のことがわかりました。

●この作品は「ガラル地方」が舞台。グレートブリテン島の地理・文化をモチーフとしているらしい。
●pkmnの世界はオリジナルの言語が使われている。
 地方ごとに言語は大まかに分かれており、上記地方では「ガラル文字」なるものが使われているらしい。有志による言語解読(!?)が進んでいる。


 3.作品にふさわしい表紙になるか
  不十分。もっとA×Kらしさを出さなくてはいけない。
 AとKを表現する要素
 →ご依頼のはじめにしたヒアリングでいただいた「鳥」「燃えるような光」を採用。

 世界観の補強、表紙で伝えたい「キャラクターの抱える心の悩みやしがらみからの解放」を表現するには
 →タイトルロゴを「ガラル文字」で作る。A×Kが手で書いたようなこなれ感がほしい。

ここまで決めたらラフを直してご依頼者さまへご提案します。

先述のラフといっしょにこちらも送付。どちらが良いかを選んでもらいました。

 選んでいただいたのはガラル文字のタイトルロゴ案です。
 ここから作り込みと文字の練習が始まります。
 ガラル文字というか言語の練習が特に難しくて苦労しました。
 ガラルの言葉は歴代の地方とはことなり単純なアルファベットの置き換えではない=言語体系も不明。同じアルファベットでも表記が何パターンもある。色々調べたり解読したり……と、とにかく紆余曲折ありましたが本筋と関係ないので割愛します。
 謎解きみたいで面白かったです。



5-作る🎨

4 で決めた方向性を落とし込んで、ビジュアルをなんとなく作ってみます。

 コンセプトの「解放」を担保しながら、
 作品を読んでわたしが感じた「このふたりを祝福したい!」という感情と
 ストーリーのカタルシスをもっと強く表現したくて要素を追加しました。

 壊れた鳥籠=解放の補強。後述するつがいの鳥を閉じ込めていた設定。

 一対の鳥=A×Kを模した姿。読者が西陽(ガラル地方がある方)へと向かって飛び去る鳥を見送るような構図にしたいと考えていました。

 加えて、ラフの段階から写真の扱いを変えることで解放感を増したり色の調整を行なっています。
 Kのイメージとして追加した赤っぽい光のおかげで愛のあるオメガバース物・作品の甘い雰囲気を与えることに成功した気がしたので
 この方向性でバランスや必要な要素をもっと詰めていくことに。

それから細々とした調整を重ねて完成です

6-できた!🎁

鳥籠の形をしたR18マーク。かわいく作れた!


 こちらで完成・納品とさせていただきました。
 タイトルを箔押しにしたかったので箔の色をいくつかご提案して、入稿の時にご依頼者様のお好みで選んでいただく形にしました。
 現物の様子はご依頼者様のXで公開されているので是非見に行ってみてください!


さいごに

 掲載の許可をくださいましたすいびじうむ様には大変お世話になりました。ここに感謝申し上げます。

 ご紹介したいご本が他にもあるので、不定期になりますがnoteでご紹介したいと思っています!(掲載許可頂き済)

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2024.09.10 すみ

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