倉敷保雄×西岡明彦 サッカー実況の二大巨頭のクロストークが実現!|トークイベント「バモス!実況席から見た世界」レポート
サッカー中継に欠かせない要素の一つである”実況”。従来のメインストリームであったTVだけではなく、インターネットなどの視聴方法やコンテンツが多様化する中で、実況を担当するアナウンサーの数も増えています。
ヨコハマ・フットボール映画祭2022で上映した『バモス!ドミンゴ-夢の実況席-』は、過去12年でさまざまなテーマのサッカー映画を紹介してきたYFFF史上初のサッカー実況をテーマにした作品になりました。
『バモス!ドミンゴ』の上映を記念し、長年に渡りサッカー実況の第一人者として活躍されている倉敷保雄さんと西岡明彦さんをゲストにお招きしたトークイベント「バモス!実況席から見た世界 実況アナの両巨頭がサッカー愛を語る」が実現!
また司会は、倉敷さんと西岡さんの大ファンで、サッカー大好き声優の今井麻夏さんに担当してもらいました!
ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第67回は、6月5日に開催したトークイベントの模様を、映画祭スタッフ・加藤がお届けします。
倉敷さんと西岡さんの憧れのアナウンサーは?
サッカー実況の第一人者として活躍されている倉敷さんと西岡さんの憧れのアナウンサーについて教えてもらいました。
倉敷さんが憧れたアナウンサー
深澤弘さん(元ニッポン放送)
ガウボン・ブエノさん(ヘジ・グローボ)
古舘伊知郎さん(フリーアナウンサー)
「スポーツ実況の大体の勉強は野球から入る」と話すように、倉敷さんがまず憧れのアナウンサーとして挙げたのは、1,600試合以上のアナウンスを担当した野球実況のレジェンド・深澤弘さんでした。
そんな深澤さんの実況スタイルについて倉敷さんは、「名調子で、一つの流れのフレーズの中でテンポよく明暗をつけながら話すことがとても上手かった」と語ります。
ニッポン放送の『ショウアップナイター』で長嶋茂雄さんの引退試合や
王貞治さんの756号HRなど球史に残る試合の実況も務めた深澤弘さん
加えて倉敷さんは深澤さんの他にも、「海外サッカーの中継のノウハウを学んだ」(ガウボン・ブエノさん)「プロレス実況を通してファッション雑誌や色々な所から用語を持っていくとやり方ができると教えてもらった」(古舘伊知郎さん)というエピソードを含め、二人の憧れたアナウンサーの名前を挙げました。
2002ワールドカップ決勝のガウボン・ブエノさんの実況
(公式インスタグラムより)
古舘伊知郎さんの実況練習風景(古舘伊知郎チャンネルより)
西岡さんが憧れたアナウンサー
犬飼俊久さん(元東海ラジオ)
西岡さんも倉敷さんと同様に、野球実況で名を馳せたアナウンサーである犬飼俊久さんの名前を挙げました。少年時代の西岡さんはTVで野球中継を見る際、TVの放送枠が終了してラジオ中継に切り替えるだけではなく、TVの音声を消してラジオの犬飼さんの実況と共にTVの野球中継を見ることもあったそうです。
そんな西岡さんは、犬飼さんの実況に憧れたポイントについて「アウトのことを『one down、two down』というメジャーリーグのエッセンスで話しているように、自分で言葉を作っていた」と語ります。
またトークの中で西岡さんは、広島ホームテレビ時代に野球中継のレポーター担当した際に犬飼さんを球場でお見かけしたというエピソードも話してくれました。西岡さんは犬飼さんとお話ししたかったものの、プレイボール直前まで取材をするなど準備をされていたので話しかけるタイミングがなかったそうです。
東海ラジオの『ガッツナイター』で”国民的行事”と呼ばれた「10.8決戦」
など中日ドラゴンズの名勝負の実況を担当した犬飼俊久さん(写真右)
お二人の生活リズム
日本時間の深夜に開催される海外サッカーだけではなく、Jリーグや日本代表etc…様々な試合の実況を担当するお二人はどんなリズムで生活して、担当する試合に合わせてどんな準備を進めているのかをお聞きしました。
倉敷さんは仕事で担当するチームの直前2試合をチェックするだけではなく、プライベートでは基本的に土日の深夜は何かしらサッカーの試合を観戦しているそうです。こうしたこともあり、倉敷さんは20年以上ヨーロッパの時間に合わせたリズムで生活になっているとのことでした。
一方西岡さんは、担当ゲームのスケジュールに合わせて映像をチェックする時間、いつ睡眠を取るのかを考えながら生活をされているとのことです。また、各実況を担当するチームの直前の1試合は必ずチェックし、可能な限り担当する試合を逆算しながらチェックをしているそうです。
印象に残っている試合は?
数々のビッグマッチを担当してきた倉敷さんと西岡さんが、特に印象に残っているゲームをピックアップしていただきました。
2002 FIFAワールドカップ グループH 第1戦 日本vsベルギー(倉敷さん)
自国開催となったW杯初戦で、日本代表が初の勝ち点を掴み取った一戦が倉敷さんが選んだゲームです。
まず倉敷さんは、「前日練習の取材で埼玉スタジアムの実況ブースに座った時に『明日ここでしゃべる』『明日“ぼくらの代表”(日本代表)がここで戦うんだ』という誇らしいものを感じたと同時に、次の日に全く違った感情があったことに驚いた」と当時を振り返りました。
ここで倉敷さんが感じた違いとは、「スタジアムが生きている」ということだったそうです。誰もいない前日から打って変わって満員となったスタンドから放たれる観客の情熱、そして誰もがひたすら日本代表の勝利を願うスタンドの雰囲気を「あの時の埼玉スタジアムは生きていると感じた」と評しました。
そんなスタジアムで繰り広げられた歴史的一戦を、倉敷さんは「お話しできないことも含めて忘れることができないゲーム」と語ってくれました。
試合のハイライトはこちら
2012 J1 第33節 サンフレッチェ広島vsセレッソ大阪(西岡さん)
西岡さんがセレクトしたのは、広島ホームテレビ時代から公私共に親交のあった森保一さん(現:日本代表監督)が古巣・サンフレッチェ広島を初のリーグ年間優勝に導いたゲームです。
森保さんが監督に就任が決まった前年のシーズンオフ、TV番組の企画で行った森保さんとの対談の中で西岡さんは「(広島が)リーグ優勝する試合の実況をやりたいね」という話をしていました。そのシーズンの終盤、他会場の結果次第でリーグ優勝が決まるという試合を担当することになりました。
そして広島が勝利を収め、2位のベガルタ仙台が勝ち点を落としたため広島の優勝が決まり西岡さんは、「『広島、優勝しました』という情報を伝えてから放送席でずっと泣いていて、2分間くらいほぼ何もしゃべることができなかった」と当時を振り返ります。
また同時に西岡さんは、「オフチューブの海外サッカーの中継でも何回か泣いていて、Jリーグの選手の引退セレモニーではほぼ泣いている」という普段の実況席でのエピソードも話してくれました。
これからの実況アナウンサーに求められるものとは?
90年代頃から始まった有料BS・CS放送の発達をきっかけに、日本でも視聴者が対価を払ってサッカーを見るようになりました。それから時代が回り、「視聴者の目が肥えたことでコンテンツに見合う対価を支払う・支払わないかということを選ぶ時代に入っている」と西岡さんは分析します。
また、倉敷さんはコンテンツやその保有者が多様化し、新世代の実況アナウンサーが登場している状況を「大変な努力をして上がってきた若い人たちが放送局以外からも出てきていることはたくましいし、素晴らしいと思う」と評します。
こうした中でこれからの実況アナウンサーに求められるものについて、お二人は共通して「プロフェッショナル・専門家になる」ということを挙げられました。
「サッカーを専門とするフリーのアナウンサーはサッカーだけに時間を使える立場である分、それに合った良い準備をして良いパフォーマンスを出せる人がビッグマッチを担当していくようになる構図になっている」と西岡さんは話します。
倉敷さんは「サッカーを専門化させるだけではなく、状況に合わせて放送という時間の中で責任を持ってまとめることができる常識や社会通念を持つことも必要」と合わせて語り、
そして「例えばCMを読むという仕事があった際、読み間違えたらお金が発生しなくなってしまう、多くの人に迷惑がかかってしまう可能性もあるというくらいのプレッシャーと向き合う中で本当に強くならないといけない」とサッカー実況があるべき姿について口にしました。
サッカーファンの視点、熱いトークでYFFFを盛り上げてくれた今井麻夏さん
トークショーでは倉敷さんと西岡さんの生活リズムに関するテーマをはじめ、今井さんからの質問もあり、いちサッカーファンの視点からイベントを盛り上げてくれました。
そしてイベントの最後には、今井さんが用意していたお二人へのお手紙を読み上げるというサプライズが。これで会場はあたたかな空気に包み込まれ、イベントは盛況のうちに終了しました。
また、今井さんはこのトークイベントの司会だけではなく、『バモス!ドミンゴ』の上映前にも作品の見どころを語ってもらいました。ここでは同日に上映された『サンシーロの陰で』との対比や、ご自身の経験と重ねて夢を叶えることを中心に今井さんの熱いトークから上映に入りました。
最後に
私が欧州サッカーを見始めた頃、欠かさず見ていたTV番組がJ SPORTSの『Foot!』や『E.N.G.~English News Gathering~』でした。そこで当時の最新ニュースだけではなく、各国の文化や新たなサッカーの楽しみ方などを知ることができたと感じており、そこで司会を務めていた倉敷さん・西岡さんは私にとっては”みるサッカー”を教えてくれた先生のような存在だと思っています。
そんなお二人をゲストにお招きして貴重なお話を聞けたこと、それをお客様とシェアできたことは非常に得難い経験をすることができました。
そして、今井さんにイベントの司会だけではなく、熱がこもったお話で会場を盛り上げていただいたことで貴重なトークショーをさらに良いものにできたと思っています。
お三方に改めて感謝申し上げます。
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