嘘ばっかり!

同じバイト先で、とても仲のいい女の子がいる。

前の店から一緒に異動してきたってこともあって
不安な時には常にその子がいてくれるから、
とても頼りにしていた。

ところどころ髪の毛が青くて

ピアスがたくさん開いていて

いつも笑顔で明るくて

声が大きくて

好きなアニメの話になると止まらなくなって

正義感が強くて

安心感があって

頼り甲斐のある 可愛い女の子。

シフトも毎日一緒で
大学の友達もコロナでほとんど会わないこともあり

その子の存在が生活の中でも大きくなっていった。

出勤前、一緒に休憩室でタバコを吸っていた。

2人とも、お金がないだとか、将来が不安だとか言う話をしていた。
常連のお客さんの話は特に盛り上がった。

「でも、バイト前のこの時間って、めちゃくちゃ楽しくない?」
2人で笑い合う。


私は今日も、何もうまくいかなかった。
身に覚えのない性病にかかって股間は痒いし
ニキビもできるし
新しいベッドが硬すぎて全く眠れてない。

だけど、夜勤前の、この数分

朝か昼か、はたまた夜なのか、よくわからないこの時間に、適当な話をすること、そして、
世界から取り残された2人にしか通じない空気感がたまらなく好きだ。

彼女は笑いながら、タバコを持ちながら自分の左手首をなでた。

「昨日さ、めっちゃイラつくことあって」


彼女の左手には、カッターで、悲しみがたくさん刻まれている。
私はなるべく、何も気にしてないように装いたくて、だけどそれはできずに、

「うん、どうしたの?」

私はいつもそうだ。

死にたい気持ちを理解してくれる人って
本当に少ないと思う。
だから、死にたいとか、消えたいとか、そんなことを考えている人に会った時に、
私はあなたの味方だよ、あなたは1人じゃないよ
そうやって伝えたくなって、必死になってしまう。

これは、果たして、相手のためになっているのだろうか??

相手は何をして欲しいのか


頭がぐちゃぐちゃになってはじけそうになる。 


小さいころから人の悩みを聞くのは苦手だ。


彼女は話を続けた。

久々に別のバイトに入ったら
新しい子たちがたくさんいて
居場所がなかったこと。

自分は女の子が好きだということ。

昨日はなにもうまくいかなくて
再びカッターで手首を切ろうとしちゃったこと。

ニコニコしながらも、時々顔の緊張がほぐれ、その時に見えた顔が切なかった。
何か遠くて、この地球に産まれる前のことを思い出しているようだった。


「そのカッターで手首切るなら、ムカつく奴殺しちゃいなよ」

思ってもないことを言った。

「そんなんしたら、私捕まるわ」

彼女はまた、固い笑顔で笑った。

ああ、また笑いに逃しちゃった。
同じ気持ちの人すら救えないなんて、私って最低。


客からもらったクライナーを一気に飲み干して
今日も出勤する。
みんないろんな悩みを抱えながら
上辺の自分でなんとか生活している。
私もその一部だ。
必死に作り込んだあざとさと
作り込んだ虚像に合わない知識量を隠して
今日も必死に男に媚びる。

客の大半は私のことを気に入ってくれる。
私のことを話し上手だとか聞き上手だって褒めてくれる。


クローズ後のお店の窓から
穏やかに上る太陽をあびる。

大切な人のことを、もう1人の嘘の自分が傷つけてしまう。

自分で作り上げた虚像に苦しめられながら
今日も始発で家に帰るのだった。

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