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(ボクサーの)育成論ーデラホーヤを例にして

今回はこのボクシングの技術指導、育成・練習を「偏り」をなくす為の作業として捉え、タイトルの通りオスカー・デラホーヤのスタイルの変遷かをたどって育成論について考えていきたいと思います。
まず、「偏り」とは何かというところからはじめていきましょう。

随分と前の事ですが『最強の競馬』という雑誌の増刊号として『最強のボクシング』という雑誌が発行されました。その『最強のボクシング』の記事に、筑波大学のスポーツ科学の研究者の方が独自のパンチ力測定器を作ってフライ級からヘビー級まで多くのボクサーのパンチ力を測定した結果の概要が掲載されていました。

いつ、どの程度の期間に渡ってデータを集めたのか、また合計何名のボクサーを対象としているのか、といったことについては記載されていたなかったように思います。とはいえ、例としてモハメド・アリと対戦相手のマック・フォスターの名前も上がっていましたから、時期としてはアリ来日時の1973年前後という事になるでしょうか。
その実験で明らかになった点は以下の2点です。

1ー階級差の顕れ。
当初予測したように、体重が増すごとに少しづつパンチ力が増していくのではなく、ライト級とミドル級、そしてそれ以上(ヘビー級)というように、伝統的な階級区分※に沿うように変化、上昇した。
※近代ボクシング発祥後の伝統的な階級区分がライト・ミドル・ヘビーの3階級です。

2ー世界ランカーと世界チャンピオンの違い
世界ランカーは得意のパンチは強いものの左右差、または得意とするパンチにバラツキがあったのに対し、世界チャンピオンは左右、またストレートもフックもアッパーもあまりバラツキがなく均等の強さだった。

※『最強の競馬』については、私自身の記憶を頼りに書いていますので、何かしら間違っているところ、抜け落ちているところがあるものと思いますが、もし気づいた方がいらっしゃいましたら教えて頂けると有り難いです。

「1」についても大変興味深い結果ではありますが、今回の育成論で話題にしたいのは「2」です。
少なくともこの2の結果によれば、パンチ力において右左、パンチの種類について強弱の偏りのないボクサーが成功すると言えそうです。
得意の右、あるいは左が空回りすると他に打つ手がない、というのでは勝ち抜いていくのは難しいでしょう。
2つの拳しか武器として認められていないのがボクシングですから、これは考えてみれば当然です。
また、現代のボクシングは非常に多彩になっており、トップボクサーの殆どは、単純に「ファイター型だ」、或いは「ボクサー型だ」と分類できず、それぞれを状況に応じて使い分けるのが当たり前になっています。
一言で言えば、それは「万能派」と言って良いでしょう。
万能派とは、左右どのパンチもパンチ力に偏りが無く、前後左右に動けて、アウトボクシングもインファイトも出来て、ストレート、アッパー、フック、スウェーバック、ダッキング、ウィービング、ブロッキング、と多彩なパンチ、ディフェンスを持ち合わせ、それを効果的に使用しいる事を意味します。
これは例えば、ボクシング史上最も高い完成度を誇るワシル・ロマチェンコについて考えてみれば分かる事です。
反対に、日本や東洋レベルでは突出した存在でありながら、村田諒太がロブ・ブラントに敗れ、辰吉丈一郎がダニエル・サラゴサに連敗したのは、明らかに技術的な選択肢が少なく、技術、戦術に偏りがあり、対戦相手を制する選択肢持っていなかったことが原因でしょう。

高いレベルになればなるほど、1つの突出した能力だけでは勝ち抜けないのが通常です。

多彩な技術を育てるには、まず偏りの無いバランスが必要になると思います。スムーズな体重移動によって前後左右への円滑な動きが可能になるからです。
前後、あるいは左右に偏ったバランスは、逆方向への体重移動においてワンテンポ遅れてしまう為に、そのまま動きの「偏り」になります。
これと同じで、導入教育の段階で「背が低くてリーチが短いからファイターに徹するべき」とか「背が高くてリーチが長いからボクサーに徹するべき」といったステレオタイプな思考に偏るのは戦術を限定させ、可能性を閉ざす事に繋がりかねません。
個人競技において、戦術とは技術の土台の上にしか成立しません。技術を持たない戦術は能力が互角の戦いにおいては意味を成しません。

さて、デラホーヤのキャリアの上でもスタイルの完成度という意味でも頂点と言えるのがフリオ・セサール・チャベスとの二連戦(1996、1998)でしょう。
第1戦


第2戦

結論から言うと、デラホーヤはその目標であったチャベス戦において、打ち合うことも、離れてアウトボクシングすることも、また迎え撃つこともできる「万能」スタイル、偏りのないスタイルを披露しました。

では、以下①〜③でデラホーヤのトレーナーの変遷と成長について述べ、④で指導論について解説したいと思います。そして⑤に、私見ではありますが、少々具体的な指導例について述べたいと思います。


①デビュー戦当時のスタイル、ジョンジョン・モリナ戦(動画あり)


デビュー戦

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