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ヒゲ脱毛

大学の3年くらいから髭が濃ゆくなってきた。
社会人になると日焼けもあまりしなくなるので、肌が白くなった分余計に髭が目立つようになっている。
毎朝剃れば済む話だが、僕の顔の肌は鬼弱い。カミソリではなく電動シェーバーでも血が出たりするくらいの肌の弱さは、キュレルに白旗を掲げられてもおかしくない。
ちなみに今使ってる洗顔はシャボン玉石鹸である。

そこで、これ以上肌に負担をかけないでおこうと、今流行りのヒゲ脱毛に行ってきた。
その前にも行ったことはあるが、3回くらいで通わなくなった。
僕は予定を立てて行動するのがとても苦手なのだ。2週間後とか先の日程に予定を入れると体を縄で縛られたような窮屈さを感じてしまう。
誰かと遊ぶときもそうだ。予定の日が近づいてくるととても億劫になり前日にピークに達する。できることならドタキャンしたいと思うほどだ。
しかし当日になると誰よりも楽しんでいるのが自分でも怖い。
今回はちゃんとヒゲ脱毛に通い詰めようと思い、近くのヒゲ脱毛に予約をとった。


当日、安定の遅刻時間でお店に着くと若い女性のスタッフがお出迎えをしてくれた。普通なら遅刻に対してぶっきらぼうな態度をとられてもおかしくないのだが、笑顔で迎えてくれた。
どうやら今日はこの女性が担当してくれるらしい。僕のヒゲはこの女性によって抜かれていく運命だったのだ。80億分の1でこの女性に出会い、今からこの女性によって、何名かの僕のヒゲは旅立つのだ。
今頃ヒゲ達は最後の宴をしているだろう。
「おめぇがさ、隣に来たのは4年前だったな」
とか、
「私たち、今日で終わりなんだね。」
とか、
「今だから言うけど、おまえのカミソリ勝ちにはみんな憧れてたんだぜっ」

とか、ヒゲそれぞれの思い出に浸ってるに違いない。

案内された場所で問診票を書き、仰向けに寝ると照射の光を防止するためのゴーグルをかけられた。
僕はこの時人生で1番、レンズの半径が小さいゴーグルをかけたかもしれない。
ゴーグルをかけ、スタンバイが完了したその姿は、浅いニット帽を被っていたのもあり、ほぼレオンである。
B級の殺し屋レオンが小禄でヒゲ脱毛を受けに来たみたいになっている。

この女性スタッフもこんな半径の小さいゴーグルをお客さんに掛けさせて、よく笑わずにいれるなと思う。
仰向けになり、半径の小さいゴーグルをかけた青ヒゲ男を上から見る景色はどんなものだろう。
一度見てみたいものである。
今度上から見られているときに変顔でもしてみようか。どんな反応をするか、とても興味深い。


ヒゲ脱毛はとても痛い。この痛さはよくゴムパッチンみたいと喩えられる。
確かに、顔にゴムパッチンを受けてるように思えた。だがこれはまだマシである。
光脱毛ではなく医療脱毛では、顔の上で小さい篠原信一が受け身の練習をしていると誰かが言っていた。これは痛いのレベルを超えている。
これを聞いて医療脱毛をするやつはいないだろう。いるとしたらそいつは早死にするタイプだ。


ヒゲ脱毛の施術の際だが、苦手な時間がある。それは鼻下をされてる時だ。
くすぐったいとかではなく、スタッフの手が鼻の下に来たときに息を吹きかけてはいけないという心理が働き、呼吸を止めざるを得なくなるのだ。
他人の生温かい息を手に吹きかけられるのは嫌だと思う。
逆の立場になって考えると、男の生温かい息を手で受けるのはとても嫌である。
こんな嫌なことは相手にもしたくない。そういった思いから、僕は鼻下をやられる時、毎回息を止めるのだ。
しかし、脱毛だとテンポが早く呼吸を整えることが難しい。
歯医者さんだと鼻下から手が離れる時間が長く、その間で呼吸を整えられるが、脱毛は1〜2秒で手が鼻下にやってくる。
手が離れてすぐ息を吐き、吸おうとした瞬間に次の手が鼻下にやってくる。
スタッフに顔の赤みを指摘されるが、これは脱毛の赤みではなく無呼吸時の顔の赤みなのだ。
たまにスタッフの一瞬の隙を盗んで呼吸を整えようと試みる。半径の小さいゴーグルをつけてるのでこれは至難の業だ。この日も一瞬の隙をついたが、そこで大きく呼吸をすると苦しそうにしているのがバレてしまう。
スタッフに息をするのを我慢していると気を遣われてしまうのも僕は嫌なのだ。気を遣われた空間にいるのはとても居心地が悪い。最近、自分の得意技は他人に気を遣われないように気を使うことだと判明した。ここでも自分の得意技を全力で出し切った。
なるべく少しずつ息を吐き、音を小さく呼吸し、いかにも自然体ですよと言う顔をするのがポイントである。この技は腹筋をめっちゃ使う。14年間野球を続けた甲斐があった。
かといって、女性スタッフも一人前のプロだ。経験値がある。簡単に隙は見せないし、隙を見せたと思ってもすぐに鼻下に手を入れてくる。かなり厄介だ。
僕は脱毛と歯医者さんに行く度に、気を遣うプロになり、施術のプロと戦っている。これはかなりしんどい。
脱毛では、鼻下は1番痛みが出る場所だというが、僕にとっては痛みより呼吸の苦しみの方が勝る。

施術が終わるとパックをしてくれる。
パックって何がいいとかあるのだろうか。パックをしない僕に誰か教えてほしい。今年は肌活を頑張ろうかと思っている。
支払いを終え、外に出るとなんだか日差しが強くなったように感じる。
脱毛を終えた後は毎回日差しが1.5倍に感じ、すぐさま守らなければ!という感情が働くのだ。
赤ちゃんを産んだ親の気持ちはこんななのだろうか。
そして車まで口の辺りを手で覆いながら移動するまでが僕のヒゲ脱毛だ。


脱毛をしなくなって5ヶ月ほど経とうとしている。
脱毛が完了したわけではない。
2回行ってまた通わなくなったのだ。
理由は予約するのがめんどくさいから。
今年こそはヒゲをちゃんと脱毛しようと思っている。

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