常昼の島の天使 [完]

お風呂の中で私は目を醒ました
不思議なことに生きている
チュン チュンと鳥のさえずり
もう朝みたい
うーんと伸びをする

あれは夢の世界というよりは
無意識の世界と言った方がいいのかもね
あの世界は私だけの世界
関係性の世界から閉じた私だけの世界

私はいい女だと思うわ
可愛いし 仕事もできたから
だけど 私を突き動かす発作的な衝動に
いつまでも耐えて生きることは無理だった

だから私は関係性の世界で停滞するのをやめて
とめどなく漂流して生きていくことにしたの
好きなことをして生きていく為に
十分な才覚は持ち合わせていた

色々な所を旅してきたわ
今は沖縄にいるけれど
そのうちまた旅立つかもしれない

私の衝動は自由を求めていて
解放を求めている 束縛を拒絶している

その根源に愛があるのが厄介だわ

好きな人がいた
それは嘘の言い方
今でも好きよ
前よりもずっと好きかもしれない

だけど私は一つの場所にとどまることができない
彼と別れるしかなかったの

私の身体は自由になったのに
心が強く彼を求めてしまう

お風呂の中で睡魔に襲われた時
私は既に寝るためのお薬を飲んでいたから
起きなきゃと最初は思っていた

だのに もういいやと意識を手放したのは
私の矛盾する衝動の在り方に
振り回されて生きるのが辛かったから

関係性の世界は夜になって
私の世界は昼になった

そこに居た彼は儚くそして永遠だったわね
ドラゴンフルーツ 花言葉は二つ

『燃える心』と『永遠の星』 

ドラゴンフルーツは
夜にしか花を咲かせないから
私が自分の世界を明るくしている内は
花を開かせることはない

夜にしか咲かないのは月下美人も同じ
儚い恋という花言葉があるけれど
違うのをひとつ取り上げるなら
『秘めた情熱』
なんてどうかしら

あなたへの愛を隠すつもりなどないのに
休火山の奥底で滾るマグマ溜りのような
私が抱える情熱にあなたは気づいてくれなかった
あなただけが好きだとでも思ったのかしら
私の好きはあなたが知るよりずっと深いから

馬鹿ね こんなにもあなたのことが好きなのに
あなたは私の情熱を疑う必要なんてなかった

馬鹿ね こんなにもあなたのことが好きなのに
どうして私は逃げるのかしら

ただいま
私は起きて帰ってきたわよ 関係性の世界に

さよなら
やっぱり一緒には居られない
私はこれからも漂って生きていく

好きよ
一緒に居られなくても 
あなたのことを愛しているから

私は常夜の島の天使
孤立した私の心の無人島を
夜の帳で覆ってしまうの

夜の魔法で真っ暗な世界になるけれど
月光が地上に輝く永遠の星を照らしてくれる
きっとその隣で天使の魔法にかけられた儚い恋が
秘めた情熱を開示することでしょう

この島ならば漂流する私の愛は決して矛盾しない
愛はただそのままの愛でいられる

願わくば私の魔法の夜に呼ばれた月明かりが
隣合わせに咲く二輪の清き白花を
いつまでも優しく照らし続けますように

おしまい


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