常昼の島の天使 ⑩

私は絵筆を握っている
私は何をしたいのかしら

絵筆を握って考える
沢山の色を混ぜながら

考えて考えて 疲れてぼーっとしていたら
私がどうして漂流していたのかを思い出した

縛られたくない私
私とは他の誰かではないということ
他の誰かではないという区別によって
記号的に生じる私という現象

他の誰かの関係性に縛られることで
私という現象が立ち顕れる

それを理屈として理解しながら思うの
それでも私は関係の鎖から解き放たれて
ただただ自由になりたいんだって
私だけの世界に逃げることが必要なんだって
そんな風に感じている私が現に存在しているから

No man is an island.
Right. I certainly need you.
(誰も無人島ではなくて、1人で生きている人なんて居ない。そうね、私は確かにあなたを求めている。)

I demand to be isolated from others, though. 
My world in my mind is obviously an island 
at a glance.
(だけど私は他者から孤立してたい。私の心の世界は見ての通りの無人島。)

Don't ask me why.
I am contradicting myself.
There is no help for it.
And so is love.
(なぜなんて聞かないでね。私は矛盾しているの。どうしようもないわ。それゆえに愛なのよ。)

誰かに縛られて
そしたら自由が欲しくなって
逃げて 迷って ひとりになって
けれどもあなたが忘れられない
まるでコインの裏表
それって つまり愛よね

気づけば絵筆は暗い色で染まっている
それでいいのよ 答えが分かったわ
私がかけなきゃいけない魔法

そう 私は天使だわ
海の天使でも 森の天使でもないけれど
私は夜の天使だった

絵筆を目一杯使って 空を藍色に塗りたくる
ここは常昼の島ではない 常夜の島なのだ

「ありがとう」

やまなしの声を聞いた私の頬を海水が伝う
ううん ホントは海水のせいなんかじゃない
ここは森の中だし 
そもそも海に居た時だって

声に出さずに私はこたえる
(愛してるの、今も変わらず)

闇夜の訪れを悟った月が
久しぶりに帰ってきた

待ち侘びた月光に照らされて
常夜の島に素朴な白き花が咲く
ヒモサボテン
あるいはドラゴンフルーツ

その隣にも花が咲いていた
ヒモサボテンによく似たクジャクサボテン
そうなの 私は月下美人
寝ても醒めてもあなたの隣よ
私の心はいつだってあなたの側に

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