③気の持ちようなど持ち合わせていない
ラインハルトとフィリップはアメリカ人であった。自慢の金髪は湿気にやられてぺたんこになっている。気の持ちようだなんていう気の持ち方は彼らにはない。嫌なものは嫌である。
人間側が環境に合わせて自分の精神をチューニングし、受け入れてしまおうという考えは土台として精神治療的な手法であり、しかもその手法自体にある種のパラノイアが潜んではいないだろうか。気の持ちようを変えても、雨は変わらず降るのであり、問題が残っている限り憂鬱はまた繰り返す。と、ここまで明瞭に言語化された思考を持ち合わせている訳ではないにせよ、彼らは不条理に降伏する気などさらさらなかった。彼らがX市に留まっている理由はただ1つ。この街を晴れにすることはきっと可能で、そしてそれはX市の思考の外の彼らであればこそ可能たりうるのであり、彼らにはその使命がある。誰に言われたわけでもないにも関わらず、彼らは勝手に天啓を受け取っていたのだ。彼らはX市の外から来た外国人。しかし、X市とは深い縁があった。
あれは、そう、10年前の夏のこと。。。
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