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広い夕焼け空の下

なんの変哲もない日常なのに、いつもと温度が違った。

公園でひとしきり遊んだあとに寄った、休日の夕方の、混み合ったスーパー。生鮮品に力を入れているらしく、新鮮な魚が姿のままずらりと並んでいる。奥には調理コーナーがあり、「煮付け用」などと伝えると下処理をしてくれるシステムだ。さっき6歳の長男がしりとりで初めて覚えた魚、"きんき"が美味しそうだったので、一尾購入した。

わたしが4歳の次男と調理を待っている間、長男と彼は別のコーナーを見に行った。彼は長男の手を取り、長男もそれに応じている。目を離しても大丈夫だな。そう思ったわたしは、次男と目の前の魚について話をした。
「これは、"ほっけ"っていう魚だよ。北海道で獲れてね、干物が美味しいよ」

先にレジを済ませた彼が、今度は長男を保冷用の氷ストッカーに連れて行く。
「あっちに別の面白いとこあるから、行こう!」
なになに?!という様子で手を引かれる長男。スーパーの氷ストッカーにしては巨大で、次々にお客が氷を取りに来るため開け放されており、たくさんの氷がよく見える。そこからスコップでざくっとすくって袋に詰めるのだから、子供は楽しいに違いない。遠くて会話は聞こえないけれど、わぁ!という表情の長男が見えた。きっと彼は、なんで氷が必要かという話もしてくれているのだろう。体験から学ぶということを大事にしている人だから。遅れてそこに到着したわたしの分も、彼は氷袋を用意してくれていた。

これで、買い物もおしまい。食材の入ったちょっと重たいビニール袋を腕に下げ、カートの子供椅子に座った次男をわたしがよいしょと抱き上げようとしたその時、横から彼が代わりに「行くよ〜」と次男を抱き上げてくれた。嬉しそうな次男。今日ほぼ初対面だったはずなのに、すっかり懐いて身体を預けているのがわかる。

駐車場に停めた車までの道のりを、抱っこされながらぴょんぴょんと跳ねる次男と、それを落とさないよう抱く彼の腕にはしゃいで捕まろうとする長男。
「ふたり同時に動くなーーー!」
そう言いながら頑張ってくれる彼の後ろ姿の上には、広い茜色の夕焼け空が広がっていた。

あぁ。優しい人と行く買い物って、幸せなんだな。

半日4人で過ごす間中、彼は子供たちにはもちろん、わたしにも気を配ってくれた。それは彼にとって普通のことかもしれない。でもわたしにとってはその体験ー子供と一緒でも、母親であるわたしに意識を向けてもらえることーは初めてだった。

その後軽く夕飯をして、彼と別れた。車の窓越しにバイバーイ!と力一杯手を振る子供たち。車が走り出してからも、兄弟で「楽しかったね」「こんなことして遊んだね」と言い合う姿が可愛らしい。

帰宅する道中、その日に盛り上がった二択クイズを子供たちに出した。
「ママが今日みんなで過ごした中で、一番楽しかったのはなーんだ?①公園、②スーパーでのお買物。さぁどっちかな〜?」
ふたりとも口を揃えて答える。
「②のお買物!!」 
「正解!」
ピンポーン!と、途中のガチャガチャで取ってクイズの時に大活躍していたミニチュアのマルバツブザーを鳴らす。イェーイ!!と盛り上がる子供たち。

今日彼と子供たちを会わせたのは、長男からの彼に会いたい、というリクエストがきっかけだった。

わたしはバックミラー越しにずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「どうして、会いたいって思ったの?」
長男はわたしの目をまっすぐみて答えた。
「ママが会いたがってたから」
そっかと短くわたしが答えると、長男は窓の外に視線を移し、流れる景色を見始めた。その横顔は、もう大人のそれだった。

 

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