婚姻届
そういえば、婚姻届を出した経験がない。
今の旦那さんとは大阪と東京の遠距離だった。結婚を機に東京に住むことになった。しかし、実家で飼い始めた黒ラブちゃんが一歳になるまでは一緒にいたい、と、そのわんちゃんの誕生日を結婚記念日にしたかった。だからその次の日に東京に向かうけど、結婚記念日は誕生日にしたいから、一人で行ってきて、と言うことだった。
今思えば、そんな私の言い分を受け止めてくれた、うちの旦那さんは本当に優しい人なんだなと、認識せざるを得ない。
「旦那さんより犬が大事なんてかわいそうに」と何人かに言われた。
インターネットで「里親募集」とあり、親に許可なく、勝手に申し込み、しぶしぶ了承してもらった。そして、夏の暑い日、2ヶ月経ったから、ということで、家族で迎えに行った。黒ラブの女の子一匹、男の子三匹、どの子がいいですか?と聴かれていたので、迷いに迷ったあげく、女の子に決めた。
4匹のかわいいパピーちゃん達がちょこちょこちょこちょこと歩いていた。
他の3匹よりも一足遅れて行動する子。ワンテンポ遅れて、みんなのうしろをついて歩く子。他の3匹が水飲んでいる中に、一匹入れず、なんとか隙間に潜り込もうとジタバタしている子。
「この子なんです」
親犬の飼い主の奥さんが私が気になったその子を抱き上げて、私に渡してくれた。
「私、この子が一番好きなんです。一杯遊んであげて下さい。」
「女の子、やさしくて、かわいいですよ」
男の子か、女の子か、迷いに迷っていた私はなんだかとても嬉しかった。
あったかくて、ふわふわして、なんだか懐かしい匂い。初めてその子を抱っこしたときの何ともいえない幸福感。
まだ子どもを持った経験のなかった私は、「もしかして、こんな感じかな、お母さんになるって」と思った。
一つ一つの動作、何もかもがかわいくて、愛しくて。
餌を食べ終わった後、嬉しくて喜びを表現するために、空っぽになったお皿を加えて、ラブラドール特有のあのしっぽをぷりぷり振り回して、腰をくねくねさせて。その姿は成犬になってもずっとずっと見せてくれた。
不慮の事故で亡くなったと、母から電話で伝えられたのは、彼女が7歳の時だった。
私はいずれ実家近くに住むことになったら、最後の世話は私がしたいと思っていたのに。
命のあっけなさを感じた。
3番目の子どもの妊娠が、その後判明した。私はどうしても3人子どもが欲しかった。だけど、2番目の子どもから次の妊娠まで2度の流産を経験した。
まるで彼女が人間として生まれ変わってくれたみたい。
そう思った。
本来、耐えがたいつわりがこれ以上ない喜びだった。今思えば、本当に幸せな妊娠期間だった。
生まれ変わりとか、見えない世界の仕組み、私にはよく分からないけど、彼女と3番目の子どもがとても重なって見える。
散歩の時、私が機嫌悪かったら、しっぽを下げて、私の顔色をチラチラ見ながらとぼとぼ歩く。私が元気だったら、ぷるぷるしっぽを振り、スタスタと歩く。子供たちも一緒。でも特に、3番目の子には、彼女が重なって見えてしまう。
出会えて、本当に良かった。
彼女にも、3番目の子どもにも。(もちろん、一番目も、二番目も)
そして、彼女の死を、ちゃんと見届けてくれた両親にも。
追記:これをタイピングしている横で、文章を目で追い、大粒の涙を流した3番目の子。こうして残すことで、いつまでも、自分の生まれてきた命の大切をしっかりと感じてくれたら、と思う。この先、どんなことに遭遇しようとも。
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