週末ロックダウン二日目、雪が降る
Kの家に思いがけず泊まった翌朝。ふっと目が覚めると、Nが
「起きた?おはよう」
と言った。「おはよう~」と返しながら時計を見ると、九時すぎだった。寝たのが三時ごろだから、しっかりちゃっかり六時間は寝ている。
「早起きねえ」
「うん、今日夜勤だし、早く帰って家でも寝ようと思っていたから」
Nはすっかり着替えも済ませている。学生時代から彼女は朝に強くて、カフェでアルバイトをしていたころは七時にはお店にいた。どんなに飲んだ次の日でも。今でもその頃の話になると、彼女は決まって「体力だけは自信あるからね」と言う。
「そういえば今日雪予報だったよね、降ってるかなあ」
と冗談半分でわたしはのそのそと布団を出て、カーテンを引いた。
すると……
「ねえ!雪!すっごい雪!」
大粒の雪が、ものすごい勢いで降っていた。広いベランダには雪が積もっている。お天気の神様は、今の日本がもうすぐ四月だということを忘れてしまっているのかしら、と思うほど、しっかり「雪」だった。
うそでしょ、とNもこちらへやってきて、二人で窓の外を眺める。
「うわあ、本当だ、降ってる……」
おそらく想像よりもずっと雪が降っていたことにNは驚いて、それからしばらくはぼーっと二人で雪を見ていた。
しばらくすると、Kの彼がやってきた。すごい雪だから送るよ、と。
普段なら「電車で帰るよ」となるところだったけれど、この雪だし、予約していたネイルケアの時間に電車だと間に合いそうにないし、お言葉に甘えることにした。
三人で、お味噌汁の素をお湯で溶かして、飲んだ。それから、なんとなくつけたテレビ番組を眺める。
テレビの中では「温かくなってきましたね~今年はお花見できるんですかねえ」なんて言っているけれど、外は雪なのだ。一見、平和なありふれた春の日、なのに、実際はコロナ禍だし、雪は降るし、摩訶不思議。
お味噌汁を飲み終わったわたしは、帰る前に、Kとこの雪を共有したいと思い、彼女を起こしに行った。
「おはよう」
寝ている彼女の肩を軽くゆする。
「ねえ、すごい雪なの」
起き抜けの顔をした彼女は「ゆきー?」と呟く。力強く頷き、
「ほんとほんと」
と彼女を促し、二人で窓の外を覗く。
「うわっ!本当だ、すっごい降ってる」
眠気が飛んだ!と、はしゃぐ彼女の背中にくっつきながら、肩越しにわたしは雪を眺める。
動いているものって、どうしてこうちっとも見飽きないのかしらね。雪も火も水も、風に揺れる木も。
朝、起きたら親友が一番に視界に飛び込んでくるとか、春なのに大雪が降っている様子を親友とくっつきながら眺められるとか。こんな幸せって、ないわ。いや、こういう小さな幸せでわたしは生きているんだわ。そんなことを飽きずに考えていた。
駅まで送ってもらう途中、車の中から、桜の木を見た。満開、の少し手前くらいと言っていいほどには、花が開いていた。それなのに辺りは一面雪で、木の枝にも雪が積もっている。薄桃色の花がうっすら雪化粧をまとっている、こんな光景を、一生で眺めることになるなんて、ちっとも想像していなかったな。ただでさえ、桜はなんだか神秘的というか、この世のものでないような雰囲気をまとっているのに、より一層、不思議の世界のものに見えた。
※ひとつ前の投稿の、次の日のお話でした。