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恋に「落ちる」

人を好きになる、といっても色々ある。

一目惚れをする人、だんだん好きになっていく人、初めから「いいな」と思っていた中から選抜していく人…(あはは)

わたしの場合は、恋に「落ちる」瞬間がある。友人にそう言うと、意外と共感を得られないのだけれど、恋に落ちる(fall in love)という言葉があるのだから、きっと同じ感覚を持っている人がどこかにいるんだと、思っている。

一目惚れはしない。恋をしてしまうのは、だいたい一年以上知っている人。それまで一度も、「もしこの人と付き合ったらどうなるかな」「好きになったとしたら、こんな感じかな」とすら思わなかった人。つまり、恋愛対象になるかもしれない、とさえ思ったことのない人を、ある一瞬から、好きになる。

どんな風かというと———

あるときは、夜の信号待ち。なんとも思ってなかったその人と目が合って、すとん、と落ちた。それは初めての「恋」だったけど、わたしは妙に納得した。同時に、そんな自分に驚いて、信号が青になって横断歩道を渡りながら、「知らなかった、そんなの、全然」と思った。どうして好きなのか、ちっともわからなかったけど、誰にも言えないその気持ちが、なんとなく愛おしかった。

またあるときは、教室を出た瞬間だった。冗談で、当時仲の良かった友人を思い浮かべながら「今廊下に出て、ばったり会ったりなんかしたら、恋をしてしまうかなあ」とかいう戯言を思いついた。心の中で一人笑いながら、扉を開けた。するとちょうど、その友人が通った。瞬間、わたしは、「しまった」と思った。「今、落ちた」と。ちっとも好きになんてなりたくなかったのに。振り返って笑いかけてくるその人を見たら、自然と笑みがこぼれた。とても切なくて、嬉しかった。叶わないと知っていたけど、好きだと知れて、嬉しかった。

好きになってしまいそう——そうわかれば、苦しくなる前に止められるのに。いつだって「落ちて」しまうわたしは、よく思った。落ちる予兆はないから、わたしにはどうしようもない。

そして、落ちてしまった後も、わたしは何もできない。穴は深くて、這い上がろうとしても、ちっとも出られない。

仕方がないから、わたしは底に座って、出口を見上げる。空が見える。雲が横切る。時折、月が顔を出す。

いろんな表情をする空を愛おしく思って見つめる。空はあまりに広くて、わたしはあまりに小さくて。どんなに背伸びをしても届かないのに、いつだってわたしのことを包み込んでいる。

時々目が合うと嬉しくなって、わたしは一人きりの寂しい夜を何度でも超えられる気がしたし、ひょいっと顔を覗かせて手を振ったり声をかけてくれたりなんかしたら、彼が去った後、わたしは舞い上がって小躍りなんかしてしまう。

こんな風だから、一度好きになると長くって、本当に苦労する。やっと恋が終わると、「もう二度とこんな風に人を好きになれる気がしないわ」と思う。

でも、わたしは知っている。


もう一生 恋はできないんだって 思った後に

そんなことはなかった よかった

——そう思えるのが 恋のいいところ。


落ちる瞬間は予測不可能だけど、きっとまた、わたしは誰かに恋をする。


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