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物語の入り口は自由であって欲しい
【文字数:約2,500文字】
・とある記事を読んで
昼下がりにwebニュースを眺めていたら、ある記事に目が止まりました。
TikTokにて小説紹介の動画を投稿しているけんごさんが、フリーライターで書評家の豊崎由美さんのツイートから、TikTokの投稿を止めるとした記事です。
12/11 16時の時点で、2人のTwitterには記事に使われているツイートが確認できる状態なので、発言そのものは真実だと確認できました。
なるべく客観的に事実を書くと、豊崎由美さんが
あの人、書評書けるんですか?
と曖昧な書き方をして、それに対してけんごさんが、件のツイートを引用する形で
書けません。僕はただの読書好きです。
と発言しています。
記事では切り取られていますけれど、TikTokへの投稿を止めるとした後に続く投稿には、「夏頃から活動に対して批判的なDMが数多く寄せられていた」とあるので、今回のやり取りだけが原因ではないようにも思えます。
ただ、せっかく生まれた新しい物語への入り口が閉じてしまうのは、1人のレビュアーとして残念です。
・実際に紹介動画を観て
この記事を書くにあたり、けんごさんがTikTokに投稿している動画に目を通しました。
それぞれの長さは異なるものの、長めのCMみたいなものだと考えればよくて、紹介している作品にも興味が湧きました。
すべての人が同じ印象を持つはずもないですが、それなりにレビューを書いている人間から見て、良い紹介だと素直に思います。
私がけんごさんの紹介動画について知ったのは、新聞の記事による面が大きいです。それは直接のインタビュー形式だったと記憶しているのですが、小説を好きになって欲しいという、明るくて前向きな姿勢を感じられました。
出版の話で前に聞いたのは、マンガの売れ行きで売り上げの大半を占めているとか、売れるタイトル以外は売れないだとか、どうにも明るいものが耳に入ってきません。
そんな時代に動画を通して作品を知り、実際に重版へと繋がったという話は希望を与えてくれます。
本を読むのは時間がかかりますし、読んでいない人と感想を共有することはできません。
だからこそ私は読んで何かしら感じるものがあれば、それを読了レビューとして投稿しています。それによって、わずかでも興味を持ってくれる人が増えればと願うのは、けんごさんと共通しているように思います。
・私なりの作品紹介
私は読書レビューに作品の「あらすじ」を書いていますけれど、それは販売ページに掲載されているものではなく、自分で考えた上で書いています。
今のところ一番評価を得ているのが、瀧羽麻子 『ありえないほどうるさいオルゴール店』で、そこに書いたあらすじを引用します。
かつて海運で栄え、今も運河の流れる街中に、ひっそりとそのオルゴール店はあった。
入り口を自分から開けて入るときもあれば、店主から客に声をかけるときもある。
店では有名な曲などを組み込んだ既製品も扱っているけれど、オーダーメイドも可能らしい。
どこか不思議な雰囲気を持つ店主は、どんな曲もできるという。
店を訪れた客たちが耳にすれば、たちまち心をうるさく、ざわつかせてしまう曲だとしても──。
一方、amazonの書籍紹介には次のように書かれています。
「あなたの心に流れている音楽が聞こえるんです」――北の小さな町にあるその店では、風変わりな店主が、お客様のために世界にひとつだけのオルゴールを作ってくれる。耳の聞こえない少年。音楽の夢をあきらめたバンド少女。妻が倒れ、途方に暮れる老人……。彼らの心にはどんな曲が流れているのでしょう? 思わず涙がこぼれる、幸せ運ぶ7編。
版元である幻冬舎のサイトでは、さらに詳細なあらすじが書かれており、おそらくそれを短く修正したものがamazonのあらすじだと思います。
並べてみると私のあらすじはタイトルと関連させる形で書いており、あまり登場人物には着目していません。そのような文章にした理由は、目的とする作品紹介に適していると考えた結果です。
・web小説における紹介文との共通点
私は趣味で小説を書いていたので、自作について「〇〇が××する話」という極めてシンプルな説明をよく考えていました。
webで読者に興味を持ってもらうためには、作品のタイトルはもちろん、作者による紹介文も重要になってきます。
どのような話で誰が活躍し、舞台となる世界がどんなものかなど、作者としては際限なく書きたい部分です。しかし、あまりにも長い設定資料集となってしまっては、その姿勢からして興味を失います。
いかに興味を持ってもらうかと考えて辿り着いたのが、先のあらすじに近い文章です。
そちらではタイトルから「オルゴール店」のイメージが自然と湧くので、収められるであろう曲からタイトル回収に繋げることで、興味を持ってくれるのではと考えました。
そんな人間からしても、けんごさんの紹介動画は興味を惹くものになっています。
作品の要素を出すタイミングや数など、しっかり読み込んで自分のものにしていなければ、あのような動画を作るのは難しいでしょう。
ある作品を書いた作者は、同時に読者でもあります。なるべく多くの人に作品を知って欲しいし、できれば読んでもらいたい。
言わば作品紹介は、本を通した対話なのだと思います。
しかし、作品紹介を興味がないと無視するならともかく、批判するのは愚かな行為に思えるのです。
・おわりに
世界には数多くの作品があって、すべてを読むことなど不可能です。
どこかで聞いた話ですが、あまり読書を嗜まない人は本の詰まった棚から、視覚とは別の圧を感じるそうな。
だからこそ物語の入り口は自由であって欲しいですし、たくさんの小さな取っ掛かりを作ることは、もしかしたら未来の読者へとつながるのではないでしょうか。
今回の出来事から、そのように1人のレビュアーは思ったのでした。
最後に「ほんのひきだし」というサイトにて、けんごさんのインタビューを見つけたので掲載します。
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