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精霊と黒霧の剣士1 〜精霊との出会い~

第1章:ダンジョン探索と精霊カナ


海風が心地よく吹き抜ける。
島の中心にある小さな 教会 は、白い壁と青い屋根が特徴で、その前には土と草が混ざり合う素朴な道が続いている。教会の前には低い白い柵があり、庭には色とりどりの花々が咲き誇っていた。

「……遅いな、リラのやつ」
ジュンは、教会の入り口で腕を組んで待っていた。
「まぁ、あいつは教会の仕事をしてるんだし、仕方ねぇさ」
ガイは大きな腕を組みながら、石の階段に腰掛ける。
ジュンは、そっと教会の中を覗くと教会の中では、リラが子供たちに絵本を読んでいた。

彼女の金色の髪が、ステンドグラスを通る光に照らされ、優しく輝いていた。
「……ほら、やっぱり真面目にやってるじゃねぇか」
「リラらしいよな」
ジュンは軽くため息をつきながら、口元に微笑を浮かべる。
ガイは大きく伸びをすると、のんびりと呟いた。
「まあ、リラのやつ、俺たちが迎えに行かないと、ずっとここにいそうだな」
「確かにな。ほら、行くぞ」
ジュンとガイは、教会の中へ足を踏み入れた。


教会を後にした三人は、島の 冒険者ギルド へ向かった。
ギルドは、漁師町の中心にある 木造の建物 で、いつも活気に満ちている。
入り口には「島のダンジョン案内受付」の掲示板があり、各地から来た冒険者たちが情報を求めて集まっていた。

「おーい、ジュン! 今日の案内は誰だ?」
受付の奥で、ギルド職員の男が声をかける。
ジュンは手を振りながら、カウンターへ向かう。
「今日は三人組の冒険者だって聞いたけど?」
「おう。そこの奴らだ」
職員が顎で指した先には、三人の冒険者 がいた。
彼らは、全員が軽装の革鎧をまとい、見たところ前衛、後衛のバランスが取れたパーティのようだった。
「俺たちが案内役のジュン、ガイ、リラだ」
ジュンが声をかけると、冒険者たちは互いに目を見合わせ、少し驚いた様子を見せた。
「……子供?」
「まぁな。でも、俺たちはこの島のダンジョンを何度も案内してる。迷子になりたくなきゃ、ちゃんとついてきな」
ジュンは自信満々に笑い、ガイは無言で腕を組んだ。
リラは苦笑しながら、「大丈夫ですよ。私たち、ちゃんと案内できますから」と優しくフォローする。
冒険者たちは少し警戒しながらも、「じゃあ、頼む」と言い、彼らの案内を受け入れた。


ギルドを出た一行は、ダンジョンへと向かう道を進んでいた。
森は、島の中央部に広がる 静かで緑豊かな場所 だった。
木々の間を抜ける小道は細く、獣道 に近い。
「この島、けっこう広いんだな……」
冒険者の一人が呟く。
「まぁな。俺たちは子供の頃からこの森を駆け回ってたから、地形は全部頭に入ってる」
ジュンが軽く返すと、ガイが頷いた。
「迷いやすい場所もあるから、しっかりついてこいよ」
リラは後ろを振り向き、にこっと笑う。
「大丈夫ですよ。もし道を間違えたら、私が魔法で位置を確認しますから」
「おお、頼もしいな」
冒険者たちは少し緊張を解き、歩みを進める。
その時――。
「――ガサッ」
突然、茂みが揺れた。
ジュンは即座に ショートソード に手を伸ばす。
「……何かいる」
冒険者たちも武器を構え、警戒する。
次の瞬間―― 黒い影 が飛び出した。
「スライムだ!」


ジュンの声とともに、森の茂みから 二体のスライム がぬるりと飛び出した。
透明なゼリー状の体に混じる不気味な赤い核が、敵意を持って揺らめく。
「ガイ、前に出ろ!」
ジュンが指示を飛ばす。
「言われなくても!」
ガイは大盾を構え、スライムの進行を止める。
「リラ、魔法を頼む!」
「わかってる!」
リラは杖を構え、静かに呪文を紡ぐ。

ライトボルト!
青白い雷の光がスライムに向かって弾けた。
電撃を受けたスライムは痙攣しながら後退する。
「よし……俺が決める!」
ジュンは素早く駆け出し、ショートソードを振るう。
――ズバッ!
スライムの核を正確に貫いた。
断末魔のようにスライムがぶるぶると震え、液体へと崩れていく。
「ふぅ……よし、片付いたな」
ジュンは剣を振ってスライムの残骸を払いながら、ガイとリラに視線を向けた。

スライムを倒した三人は、再び 冒険者パーティ と合流する
「へぇ、お前ら、戦えるんだな」
冒険者の一人が感心したように言う。
「まぁな。俺たちは島で育ったから、ダンジョンも熟知してる。3層までなら、安全に戻れる ってのが島のルールだ」


ジュンが胸を張ると、ガイが静かに補足する。
「でも、迷いやすい構造になってる。道案内なしで入ると、出口を見つけるのが難しくなるぞ」
リラは微笑みながら、「だから、私たちみたいな案内役が必要なんですよ」と付け加える。
冒険者たちは納得したように頷き、三人の後をついてダンジョンの中へと入っていった。


ダンジョンの内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。
「ここが 第1層 か……思ったより静かだな」
冒険者の一人が呟く。
「まぁ、1層はスライムと小型の魔物しか出ない。注意すべきは 2層以降 だな」
ジュンが説明しながら進む。

足元の湿地帯には 大ガエル という大型の両生類型モンスターが生息していた。
「こいつらは厄介だぜ。舌を飛ばして捕まえにくる からな!」
ジュンが警告した瞬間、ぬるりとした舌が伸びてきた。
「チッ!」
ガイが 盾で弾く
「うわっ、キモい!」
冒険者の一人が飛びのくが、リラが素早く魔法を唱える。
ヒールウォーター!
光る水が弾け、大ガエルを弾き飛ばす。
「よし、進むぞ!」

ここから先は 迷いやすい構造 になっている。

「なるほど……確かに、一度入ったら道が分からなくなりそうだ」
冒険者が納得したように言う。
「でも、俺たちがいるから大丈夫だ。さあ、こっちだ!」
三人の案内によって、冒険者たちは無事に3層までの探索を終えた。
「ありがとうな。おかげでスムーズに進めた」
「案内料だ。受け取れ」
冒険者たちはジュンたちに報酬を渡すと、別れを告げて奥へと進んでいった。
「さぁ、俺たちも帰るか」
ジュンたちはダンジョンの出口へと向かう。


「今日は特に問題なく終わったな」
ジュンが言いながら通路を歩いていると――
――ゴゴゴゴゴゴ……!!!
突然、地鳴りが響いた。
「……え?」
次の瞬間、天井が崩れ始める。
「逃げろ!!」
ガイが叫ぶ。
ジュンはリラの手を掴み、駆け出す。
だが――遅かった。
大量の瓦礫が降り注ぎ、ジュンはその場に取り残される。
「ジュン!!」
リラが叫ぶ。

「くそっ、抜けられない……!」「ジュン!」
 リラが駆け寄る。ガイも必死に岩をどかそうとするが、大きすぎる。
 その時だった。

 ――フラッシュバック。
 断片的な記憶が脳内を駆け巡る。
 転生前、登山中の事故。崖から滑り落ちる寸前の自分。ロープの先には親友の姿。そして、彼が一言。
 「……もう、ダメだ」
 次の瞬間、ロープが切られた。
 (まただ……また、俺は……)
 「ジュン、頑張って!」
 リラの声が聞こえた。その瞬間、現実に引き戻される。
 「……リラ?」
 「大丈夫、引っ張るよ!」
 リラが小柄な体で必死に手を伸ばし、ジュンを引きずり出す。
 ――あの時とは違う。今回は、助けてもらえた。
 安堵したのも束の間、崩れた岩の向こうに奇妙な空間があることに気づいた。
「……これ、何?」


 精霊カナとの出会い
 三人は慎重に奥へ進んだ。そこはまるで、時間が止まったような場所だった。

 空間の中央に、大きな魔法陣が描かれている。そして、そこに浮かぶひとつの光。
 「……誰?」

 ジュンが声をかけると、その光がゆっくりと形を成した。
 少女だった。
運命の出会い――ジュンとカナ

透き通る銀髪に淡い緑の瞳、不思議な衣をまとった少女が、静かに呟いた。

「……私の名は、カナ」

ジュンは息をのんだ。ただの人間ではない。彼女の周囲には魔力の波動が漂っていた。

「あなたたちは……どうやってここへ?」

「たまたま落盤に巻き込まれて……」

「そう……私はずっとここにいたの。ずっと、ずっと……」

寂しげな微笑が、ジュンの胸を締め付けた。

――また、見捨てられた人がいる。

頭に蘇るのは、転生前の記憶。滑落したあの瞬間、切り離されたロープ。
ジュンは拳を握りしめ、一歩前に出た。

「君は何者なんだ?」

「私は……精霊。かつて誰かと共にいた。でも、何かを忘れてしまったの」

遠くを見つめるカナの瞳に、言葉を失う。

「……なら、俺たちが君を見つけたってことだな」

カナが驚いたようにジュンを見つめた。

「見つけた……?」

「ああ。もう一人じゃない」


「精霊、か」

ガイが腕を組む。

「精霊ってバレたら、ヤバいんじゃねぇか?」

ジュンの胸に冷たい予感が走る。

「……狙われる可能性はある」

カナの声が小さく響く。

ジュンは即座に決断した。

「誰にも言うな。これは俺たちだけの秘密だ」

リラが驚く。

「どうして?」

ジュンは息を吐き、静かに答えた。

「俺は……見捨てない」

沈黙の後、リラとガイが頷いた。

カナは、ほんの少し寂しそうに微笑んだ。

「ありがとう……」

その笑顔が、どこか嬉しそうに見えた。


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