ピンチはチャンス
「インド人とは二度と仕事しない。」
独り言のように、一日に3回(朝と昼と夜に)
そう零していた。
私はインドが好きで、インド人も好きだった。
それなのに。
インドで立ち上げたオリジナルブランド【हरिःhari】
"ハリオーム"からインスパイアされたその響きは、
アシュラムに出入りする人がよく挨拶のように使う、神様のことを現した神聖な言葉だった。
何度も店に足を運び、生地を選び、寸法を相談し、交渉を重ねて完成した、インドのカディコットンで作ったhariオリジナルラップスカート。
インド独立の父ガンジーが広めたその布は
別名
The fabric of freedom
(自由を勝ち取った布)
として今もインド人に愛され続けている。
そして私もまたこのスカートにとても愛着を持っている1人だ。
オーダーが沢山入っていた当初、
新しく生産した商品をデリーから日本に送ってもらったが
運悪く税関で引っかかり、予定していた到着日から2ヶ月が過ぎようとしていた。
荷物が動いていないにも関わらず、
店の亭主ピントゥは私に先に支払いをさせようとしてきた。
どうやら金欠らしかった。
この男はいつもだいたい金欠らしい。
そんなやり取りには私はすっかり慣れてしまい、
いつものように躱し大切な要件だけ伝えるように努めた。
お客様に謝罪メールを送り
もう届かないのだろうと96パーセント諦めていた。
でも残り4パーセントの
怒りにも似たエナジーを振り絞って、
金欠の男ピントゥに交渉し続けた。
毎日毎日、粘り強くメールや電話をした。
憂鬱な日々だった。
インド人とは二度と仕事しない。
呪文のように唱えていた。
4月
呪文が効いたのか、私の粘り強さが報われたのか、
待ちに待った荷物が漸く届いた。
インドの匂いがする大きなダンボールだ。
鼻歌を歌いながらスカートを手に取る、、
なんてことだ!
全身の力が抜けたのを覚えている。
ママ、大丈夫?
隣にいた娘が私の顔を覗き込んでいた。
私は笑った。
泣きたいと叫びながら笑った。
娘も笑っていた。
届いた商品はラップスカートの命ともいえる紐の長さを全て間違えていて致命的に短かったのだ。
これではラップできない。
終わった。
そう思った。
インドで朝の4時に野良犬に追いかけられた時と同じくらい終わったと思った。
その時点で沢山の方から注文が入っていた。
遅くなっても大丈夫だからと快く待ってくれていた。
私は在庫を抱えて憂鬱な日々を過ごした。
ピントゥからは毎日のように支払い請求のメールが届いた。
何を説明しても彼等には通用しないのだ。
いつも頭の片隅ではラップスカートの山が悲しい目で私を睨んでいた。
少し休もう。
" 間 " をとることの大切さや
"wait " することの重要性を思い出した。
(過去記事)
そんなある日の午前4時
プラクティスしている最中に
私の背中にあるクリエイティブスイッチが突然
オンになった。
リメイクしたらいいやん!
脊柱12番目の奥の方で誰かがそう言ったのだ。
私は古いミシンを引っ張り出してきて
部屋の隅に山のように積まれていたスカートを
何枚も、何時間も無我夢中でリメイクした。
時空が曲がり食べる事や寝る事も忘れて心が踊った。
気がついたら私は紐に色んな柄が入った洒落たラップスカートを完成させていた。
これだ。
これなら売れる。
そして今本当に結構売れているのだ。
今だから言えるけれど
「ピンチはチャンス」なのだろう。
呪文を唱えていた日々が懐かしく、愛おしくさえ感じる。
ピントゥ、あなたのおかげで面白い経験ができたよ。
やっぱり私はインドが好きだ。
今、わたしの背中にあるクリエイティブスイッチはオフになってしまった。
また誰かが押してくれるだろうか。
それともピンチや逆境の時にそれは作動するのかもしれない。
インド人とまた一悶着しながら仕事がしたい。