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SONYでオフィスのデザインをした話

おはようございます。
今日はソニーでオフィスのデザインを担当するという稀有な体験を話そうと思います。
会社の事情はどこまで話していいかというところもあるので、グレーな内容はニュースとして出ているものをベースに記載していきます。

突然の辞令とデザイン担当への抜擢

こちらの記事にある大阪の半導体設計拠点のオフィスをデザイン担当しました。
2018年からオフィス開設のプロジェクトがスタートした当時私はLSIデザインのエンジニアでした。新卒入社2年目の何の特徴もない社員だったと思います。
当時スマートフォンの成長が著しく、イメージセンサーの事業拡大に対応するためこれまで進出してこなかった関西の拠点へ人材確保の意味を込めて踏み切る方針が提示され、何人かのエンジニアが厚木や福岡から大阪へと赴任となることになりました。私の専門領域からは3人が候補として挙がり、そのうちの一人が私でした。

中途採用社員の教育と、彼らと共に設計をするメンバーとして大阪へ行く想定でしたが、ある時部長に声をかけられ、大阪オフィスのデザインを担当してほしいとの指令が下りました。

当時の事業部長の思いで、Googleをはじめとしたビックテック企業のような面白いオフィスにしたいとのことで、若者にデザインを担当して欲しいという背景から私に声がかけられたようです。
そのチームとして私の他、中途入社で私とほぼ同期くらいの2名が参画しなぜか私がそのリーダーとして抜擢されることになりました。

新人の時に披露した、欽ちゃんの仮装大賞の鞍馬体操芸の完コピが買われ、「こいつは面白いやつだ」と思われたせいかもしれません。

ビッグテック企業のオフィスの研究とソニーのオフィスとして出した答え

Googleのようなオフィス、と聞くとオフィスの中に遊び場所があったり、奇抜なデスク環境があったり、無料の飲食サービスがあったりというのを浮かべると思います。
事実ググってみると彼らのオフィスはそう言った設計になっていますが、オフィスの広さとしても単純に真似することが不可能であることは明らかでした。

要望としてはGoogleのようなオフィスでありましたが、側だけ真似ることは不可能、であれば彼らがどういった狙いであのようなな奇抜なオフィス空間にしているのか、その考えやエッセンスを抽出し、我々に必要な要素を足し合わせ、SONYらしいオフィスへと昇華させていこうというのが私たちの方針となりました。

まず考えたいのは、ビッグテックの狙いはなんなのか。次の3点が主要なポイントであると考えられます。

1 イノベーションの創出

当たり前ですが、オフィスで働くのは従業員であり、企業のアウトプットは従業員によって生み出されます。したがって彼らの創造性=企業の競争力の源泉であると考えられます。想像力を掻き立てるようなデザインのオフィスは従業員の創造性を最大限に引き出し、イノベーションの創出へと大きく貢献するのです。

2 企業内ソーシャルキャピタルの創出

彼らのオフィス内にはカフェや広間、開放的な階段やエスカレータなどインフォーマルなコミュニケーションを喚起する休憩・共用スペースが効果的に設置されています。これは組織を円滑に機能させる従業員間の信頼感やつながり、すなわち企業内ソーシャルキャピタルを育むための仕掛けとして用意されたものになっています。

3 優秀な人材の確保

創造性豊かで能力の高い人材は仕事と生活を切り分けるよりも、融合一体化させる働き方を志向していることが多いです。米国のシリコンバレーではハイテク企業の間で人材の引き合い合戦が激しく繰り広げられており、企業には優秀な人材の確保・定着のために必然的にオフィス環境を整備・提供せざるを得ない状況になっています。

この3つの要素は共感の持てる内容であり、かつ企業が企業として体裁を保つ限り普遍的なニーズなのではないでしょうか。私たちもこの要素を抑えつつ、かつ私たちの業務において扱いやすいオフィスの形を目指すこととなりました。
特に重要視したのはオフィス内でのコミュニケーションの在り方です。これまでの島型座席配置は自分の仕事に集中する点では優れていましたが、複数人で仕事をする上ではそのインターフェースの会話が重要になってきます。また、分業が進んだ大企業においては自分の担当領域から外が中々見えず、知識に偏りが生じることが問題であると感じていました。そのためオフィス内は会話しやすい雰囲気と、通常関わらない人の交流を生む仕掛けを用意したいと考えました。

当時はコロナ環境に入ってしばらく経った時期でしたので、リモートのやり取りでは生み出すことの出来ない体験のあるオフィスである必要性を感じました。特に新入社員や新規の中途社員などは、人脈がないですからそこの組織に属する人との関係を構築するということは非常に重要なことだと思います。

また、リモートワークができる世界でオフィスに求められるのは「より高いパフォーマンスを発揮できる環境」や「人との交流」にあると考えており、そういった意味でもコミュニケーションを促進するオフィスにしたいと思っていました。

オフィス内での新しい働き方の採用

私たちの業務がしやすい環境を創造するにあたって、ABWという考え方を取り入れました。ABWというのはActivity Based Workingの略で、働く内容に沿って場所や働き方を変える考えになります。オランダのVeldhoen + Companyという会社によって発案されたフリーアドレスの新しいスタイルです。
会社における活動を下記の10の活動に分類し、それぞれの活動に適した環境をオフィスに用意し、従業員はこれから自分の業務内容を考えて適切な場所に移動し業務に取り組む思想です。

https://www.itoki.jp/abw/ より引用

どういった環境をどのような割合で限られたオフィススペースに配置すべきか、従業員にアンケートをとり、そこから時間的な割合を算出し、それを空間的な割合としてオフィスに什器を配置しました。この時オフィス内は工事による間仕切りなどは極力作らず、什器の配置や床材によって空間を視覚的に仕切るようにしました。これは後から什器の増減が可能なようにするためです。運用してからオフィス内での使用感の声や働く内容の変化によって環境の割合を変えられるようにすることは必要な条件でした。

デスクワークを行うエリアが支配的でしたが、そこには複数種の什器を配置しました。通常の島型のデスクに加え、その人の高さに調節可能な昇降デスク、チームでの働き方にあったY字のデスク、目線の高いハイデスクなどです。
それぞれの好みに合ったものを用意しました。

ABWはフリーアドレスの進化した姿なので、移動することが前提になります。
したがって業務に使うPCは持ち運びしなくてはいけません。そうすると充電器ケーブルも合わせて持ち運びが必要で、移動した先でHDMIの繋ぎ直しなども必要になってきます。これが移動することの障壁になることは避けたいと考え、全てのデスクにUSBハブを設置し、Type-Cの端子をPCに接続すれば充電もモニタ接続も有線LAN接続もできるようにしました。このおかげで従業員はPCとマウスさえ持ち運べばどこでも仕事ができ、移動先でスムーズに業務にあたることができるようになりました。

人が集まり交流が生まれるカフェスペースの設置

業務では関わることがない人たちや、オンラインのMTGでは会話したことがあるが現実で会話したことがない人たちの交流を生む仕掛けとして、誰でも無料で利用できるカフェスペースを用意しました。
その前にはアイランドカウンターを設置し、コーヒーをとりにきた人同士がそこで自然に会話が生まれる機能を果たすように工夫しました。
これが意外と機能しており、その場所は話しかけても良い文化が生まれました。
その場では業務に関係のない話題はもちろん、技術的な会話や分からないことや知らないことの相談など色々な会話を生んでいます。

ちなみにカフェのほか、ウォーターサーバーやパックの紅茶、ココア、などなど色々なドリンクが楽しめます。お弁当を温められるように電子レンジも用意していますが、こだわりのバルミューダの製品を置きました。
雰囲気も、置いてあるドリンクの質も評判よしです。

開発した製品を扱えるディスプレイエリアの設置

私たちはイメージセンサの設計エンジニアでしたが、意外と日常的にスマホなどで写真を撮るかと言われると、そうじゃない紳士が多数派でした。
写真を撮ってインスタにアップしたりするのは若者のイメージがありますが、イメージ通りの状態です。
ただ、エンジニアリングというのは過去からの性能向上や課題の解決を行うのが仕事と言っても過言ではなく、自分の開発したものがどのように価値を生み出しているのかを確認したい気持ちは皆持っています。
しかし自分達の開発したものが搭載されるのは当然最新のセット品であり、個人が毎回新しいセットを購入するのは現実的ではなく、結果的に作りっぱなしで終わることがほとんどでした。
そこで、大阪の拠点で開発したセンサーが搭載されたセットが発売されたらそれを展示し自由に撮影できる環境を用意しました。
イメージセンサというのは面白いもので、良いものを作ればダイレクトに画像として反映されるので、自分達の努力や仕込みがうまく機能しているかどうかをすぐに確認できるようになりました。
これまで設計者は設計のみを行なっていたのが、実際に動かしてそれを気軽に体験できる環境が整ったことで、仕事へのやりがいや楽しみの広がりへとつながり良い効果をもたらしました。

会議室の廃止とオープンミーティングスペースの拡充

厳密には完全に廃止することは消防法的に叶いませんでしたが、このオフィスではいわゆる会議室というものはほとんど採用していません。
コロナ以前では対面のミーティングが主であったために、会議室を確保することが業務時間を奪う作業となっていました。コロナ禍においてテレワークが主体となったことによるオンラインミーティング化が解消することにはなりましたが、そもそも大阪オフィスは設計拠点であり、他のメンバーに聞かれてはまずいことは基本的にありません。もちろん個人面談などは会議室を使うのがベターですがその程度です。したがってオフィス内には予約不要な多種多様の会議スペースを用意しており突発的な会議でもすぐさま場所を確保できるようになりました。
また、あえて通路からモニターが見えやすいような配置にして、椅子の裏にはカウンターテーブルとスツールを用意し、偶然通りがかった人が興味ある内容であれば飛び入り参加することができるようなエリアも一部用意しました。
これがよく機能しており、その場で行うミーティングはよく盛り上がっています。

終わりに

オフィスの一つ一つのことにこだわって作り上げたので、語ることは尽きませんが、会社の情報であるため写真を載せるわけにもいかず、この辺りで留めておこうと思います。
オフィスデザインのエッセンスは含めることができたのでよかったかなと思います。
普段関わることのないデザイナーの方とも交流でき、その考え方などから学びを得て、私の自宅のインテリアにもその学びを反映させたりと良い効果が得られたかなと思います。

本日はオフィスデザインの話をしましたが、将来的なオフィスの姿というのは、おそらくよりパーソナライズされたものになるでしょう。そのアプローチがメタバースなのかユニバースなのかはわかりませんが、個人の情報を集めそれに最適な環境を提供するという方向にはいくと考えています。
事実、既に別の会社では社用スマートフォンで従業員の行動を追跡し、それを業績と結び付けたりとデータをベースとした取り組みがされていたりもします。
次世代のオフィスがどのような姿になっていくのか今から楽しみです。

私の自宅
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