まだ見ぬ君を恋うる。
僕はトラ。強くて勇ましいトラ。
人間は僕のことを ”アムールトラ” と呼ぶらしい。
僕は、いつも一人で旅をする。
なんでかって?!
出逢うみんなが僕を怖がるからさ、だから誰も寄ってこないよ。人間以外はね。
僕が近づくと、みんな食べられてしまうのではないかと逃げていってしまうんだ。
噛みつきも、食べもしないのに。。。ただ喋り相手が欲しいだけなのさ。
僕は、孤独を纏い流離う(さすらう)よ。
新月の漆黒の闇、星降る夜、僕はどうしようもなく寂しくなるんだ。
そんな時は、老木をベットにして眠る。
老木は云った。
「君のことを探している誰かが、後からやって来るだろう。その娘が来たら君のことを伝えよう。そして、どちらの方角へ旅立ったか枝で指し示そう。案ずることはない。きっと巡り逢える。今日は安心してここで休みなさい。」
薄明の刻。
二羽の小鳥の囀がどこからか聴こえる。冴え渡った美声は空気を突き抜けるようだった。足元に冷んやしたものが触れて目を覚ますと、そこは辺り一面霧海が広がっていた。一瞬ここは湖かと思って僕は目を擦った。
『それにしても、なんときれいな景色なんだろう。』
昨夜見た夢のように美しい景色だった。
いつの間にかトラは微笑んでいた。
そして、老木も、微笑んだ。
老木にお礼を告げると、
幻想の海原へ旅立って行った。
颯爽と歩むトラが見えなくなるまで、
いつまでも見送り続けた。
ノリノリ様の記事の【写真 ー ※ 】から思わず浮かんだ物語です。「恍惚感と彼方への祈りのような希望」の表情が、まるで恋する人間のようで心奪われ一気に書きあげたものです。トラの表情がよく見てとれる拡大写真や、写真にまつわる詳細が⬆️のこちらの記事でご確認いただけます。
是非、併せてご覧下さいませ。
【 創作参照写真 ー ※ 】 英国自然史博物館 / 野生写真コンテスト2020 受賞作品 セルゲイ・ゴルシュコフ氏 撮影 タイトル『抱擁』
コンテスト受賞作品につき、広告、販売などの営利目的による写真転用はお控えくださいますようお願い申し上げます。