後悔ないと彼は言うけれど

「死んでもいい。後悔ない。」


よく彼はそう言った。十分人生楽しんだって。彼は当時33歳だったと思う。親友が亡くなって、自分も死んでもいいんだってよくそう言っていた。楽しいこともやりきったと。私からしたらなんでやりきったと言い切れるのか分からなかった。彼の人生の諦めのようなものを感じた。当時私は18歳。高校卒業してすぐの私は世間知らずでわからないことだらけで彼を怒らせてばかりだった。その分たくさんのものを吸収させてもらった。新しい世界を見させてくれた。経験させてくれた。いつも眩しかった。私の人生は始まったばかりだったから、彼が人生後悔ないっていう意味が理解できなかった。


そして現在。人生後悔ないって言っていた彼を思い出す。私はどうだろう。孤独で死にたくなるけど、いろんな経験をして、世界は広がり続ける。必要なときに必要な人が寄ってきて私をいろんな世界に導いてくれる。彼にも教えてあげたい。死ぬにはまだ早いし、君はまだ青いって。18歳の私は、彼のことを大人に感じていたけど今の私から当時の彼をみたら、まだまだ青い。傷つきやすく、完璧主義のくせに全然脇が甘くて、自己防衛ばかりのわがままの甘えん坊。愛されたくてたまらない、子供みたいな人。


彼と付き合ってたときの年齢に達する頃には彼みたいな大人になれるのかなって思ってたけど彼を超えられるぐらいの成長はできたかなと思う。今の私なら、みほちゃんも成長したねって言って笑ってくれそう。


きっと穏やかな顔するんだろうな。別れて長い年月が経っても目に浮かぶ。


まだまだ青いよ!楽しもう!


だなんて私が言ったら笑って頷いておどけた話を振ってくれそう。ねえ、18歳の私。後悔ないって言い切られて、困惑して、そうなんだねしか言えなかったけど、戻れるならまだまだだってそう伝えてあげてよ。そしたらきっともっと繊細な彼は希望を持ってくれたかもしれないよ。


付き合って間もないときに彼からもらったピアス。「これが似合う女性になりなさい」っていってプレゼントしてくれた。当時ピアスをもらって嬉しかったけど、その言葉がプレッシャーで着用できなくてずっと箱にしまったままだった。今なら着けれるかな。やっとそこまでたどり着いたよ。


今はもう居ない、彼に綴る。

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