彼と過ごした2周目の季節
彼がお店を閉めてから、1年が過ぎた。
今年もまた街路樹のイチョウが黄色く染まる。
なんだかんだいいながら、ひっそり、誰にも気付かれないように、付かず離れずで私たちは側にいる。
ピアスの穴が安定してきたのと一緒で
私たちの関係性も安定したように感じる。
「うまく利用したらいい」
最近彼の口から聞かなくなったのは、私の迷いが彼に伝わらなくなったからだろうか。
それとも言葉の通り、うまく割り切って利用しているからだろうか。
なにはともあれすっかり私の心の隙間に、彼が住み着いてしまった。
そしてきっと彼の心の隙間に、私が住み着いていることでしょう。
彼は彼で私をうまく利用できてるなと感じる。
お互い、守るべきものがある。
だからこそいろんな重圧でしんどくなるときもあるし、
体面を気にせずただの男と女になりたいときだってある。
そんなときの逃げ道。それが私たち。
ただそんな関係にちょっとだけ変化があったように感じる。
彼は居酒屋を閉めてから、いろんな仕事をチャレンジしていた。
彼の新しい仕事に携わることが私の楽しみでもあった。
私はずっと看護師以外の仕事してみたかった。この業界しかしらないからこそ、違う業界をみたかった。
彼の仕事を通して、その願いが叶ったのだ。
真冬のアンテナ工事から手伝いは始まったのだが、一緒に携われることが私にとっていい息抜きになった。
夜勤明け、眠いけどそれ以上に新しいことをしたいというワクワクが勝った。
そして、寒い外仕事を終えたあと、コンビニで温かい肉まんを買って、からしをつけて食べるのが私の楽しみ。
寒かったねーとかいいながらふたりで肉まんをほおばる。
そして今年の夏は蜂の駆除業者をしていた。
私の夜勤の仕事が終わったあと、彼の車に乗り込んで現場に向かう。
現場に着いたら、見積もりをして、作業に取り掛かる。
灼熱の真夏の屋根裏や瓦屋根の上での作業。
アシスタントとして指示に従って動く。
大した作業はできないけど、当事者意識をもって協力すると一緒に働けている気分になる。
それが楽しい。看護師じゃない仕事をしているっていうことが楽しいし、気分転換になる。
看護師の仕事以外をしているという経験が、私の自信につながる。
灼熱の夏、屋根に登って見渡す景色が気持ちいい。
彼と一緒に仕事をするのが楽しい。
彼の癖や仕事のパターンを観察するのが楽しい。
気がつけば夢中だった。
時々私メインで作業させてもらえる時もあって、小さなアシナガバチの駆除なら私もできるようになった。
そしてこの夏は彼から釣りを教えてもらった。
これがまた本当に楽しいのだ。
キス釣りからはじまって、マゴチ、イカ、太刀魚、カレイ、イワナなど
いろんな釣りの仕方を教えてくれる。
釣れたら嬉しいし、美味しい。
釣れなくても、ふたりで釣りをしながらのんびりする時間が、時間に追われる慌ただしい日々に癒しをくれる。
2人だから楽しいんだ。仕事も遊びも。
一緒に仕事をするという経験が、私たちの関係を安定させたのかもしれない。
そして安心して彼に身を任せれる。
たったひとりの理解者がいるだけで、私は前を向いて歩ける。
何があっても大丈夫。傷ついたら彼の胸を借りればいい。
ひとりじゃないから、安心して前に進めるんだ。
そして私たちの2周目も終盤。
この冬、新たなことに挑戦する。
ワクワクする。
彼の肩越しから一緒に見る景色。
0から始める面白さ。
きっとまた楽しいことを、私に教えてくれる。
この景色が、経験が、私を成長させてくれることでしょう。