疲れたときの雨宿り。ある男性との出会い

あじさいが見頃を迎えた頃、私は一人の男性に出会った。私はカメラマンをしていて、その日は雨の中物撮りをする予定だった。DMで撮影風景を見たいとコンタクトしてきたので撮影場所まできてもらった。彼は趣味がカメラではなく、ただ傘を差しながら私の姿を見ていた。何をしに来たのかなと、不思議だった。表情もあまり優れない様子。「平日なのに仕事は？今日は有給？」そう聞くと彼は「仕事に疲れて休んだんだ。」と答えた。

話を聞くと彼は既婚者で子供がいた。春から部署が変わって仕事に慣れないなか、毎日残業と帰って寝るだけの生活。すぐ朝になって出社したら沢山のメールに目を通す。そんな日々が嫌になって今日、目が覚めたらもう無理だってなってなって、仕事を休んだと言っていた。彼は「転職したいな」とつぶやいた。私は気の利いた言葉をかけてあげることはできないけど、初対面の私だからこそ話せるものがあるんだろうなと思って話を聞いていた。休んだことも、辛いってことも妻には話していないらしい。身近な人に弱さを見せたくないって気持ちはよくわかる。

そして最後にハグをした。簡単に頑張れなんて言えないから、何も言わず抱きしめた。彼は静かに顔を赤めていた。

あのときの彼は、次の日気持ちを切り替えて仕事にいけたのだろうか。頑張る背中を押してあげれただろうか。辛くなったらまたおいで。話ぐらいなら聞くからね。