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『星美くんのプロデュース』リクエストSS1


『美容魔法少女・心寧』


 朝起きたら、目の前にちっちゃい星美くんがいた。なんか宙に浮いてて、掌サイズのぬいぐるみみたいな大きさで、ミルクティー色のロングヘアがふわふわのしっぽみたいに踊っている。え、可愛いすぎでは……?

「な、なんでちっちゃいんですか、星美くん……?」
「ちっちゃい? ホシミ? 何言ってるの? ボクは惑星BAからこの星の美容を守るためにやってきた使者、ジルだよ!」

「唐突なガバガバSF設定……⁉︎ というか、なぜ美容……? 普通は平和とかでは……?」
「いや平和とか治安維持は警察の仕事だよね」
「なんでそこはリアルなんですか……?」

 夢みたいにちっちゃくて可愛い星美くん――じゃなくてジルちゃんは困ったように続ける。

「ボクがこの星で力を使うにはこの星の少女と契約しなくちゃダメなんだ」
「……はっ、そ、それってもしかして――」

 少女、契約、力、そんなワクワクする言葉から連想するものなんて一つしかない。

「――『ボクと契約して魔法少女になってよ』ってやつですか!」
「うん。ボクと契約して美容魔法少女になってよ!」
「いやなんか変なワード混ざってるんですけど⁉︎ なんですか美容魔法少女って⁉︎」
「美容魔法少女になれば日々の生活習慣を見直し、肌ツヤが良くなるようスキンケアにも注力し、髪質に合ったヘアケアを意識し、小鼻の毛穴の黒ずみがやたらと気になるようになるよ」
「それはただの美容意識の高い少女ではっ⁉︎」

 せめて小鼻の毛穴くらい綺麗にしてよ!

「あとは年齢を重ねても不思議と見た目は若々しいままいられるよ」
「それはただの美魔女ですよね⁉︎ いやすごいですけどっ……!」

 でもこんなのわたしが思ってた魔法少女じゃない……魔法要素ないし……。

「あっ、そうこうしてるうちに怪人が現れたよ!」
「怪人っ⁉︎」

 また急に生えてきた設定……と思いつつ、ジルちゃんの指差す窓の外を見ると、

「おらぁぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁあ!」

 謎の全身黒タイツの男が道行く女性に向かって手に持ったボトルから謎の液体を発射し、女性たちが逃げ惑っていた。何あれ……変態……? というかわたしの家のすぐ前なんですけど……あの中を通って学校行くの? 地獄?

 唐突に治安がスラム街になった住宅街を見下ろしながら、ジルちゃんは言う。

「あれはクレンジン軍曹! 道行く女性にクレンジングオイルを掛けて、家を出る前にせっかく綺麗にしてきたメイクを落とそうとしてくる怪人だよ!」
「思ったより地味! でも普通に嫌です……!」

 せっかく早起きして朝のメイクを頑張った時間が全部ぱぁってことだ……。

「さぁ心寧、早くボクと契約して美容魔法少女になってみんなを助けないと!」
「えっ、いやっ、でもあれ普通に変態というか、警察の管轄じゃないですか……?」

 普通に人に危害を加えてるもん……怪人とかふわっと言ってるけど何かしらの法は犯してるでしょ……犯罪者でしょ……。

「在留異星人は日本の法律じゃ裁けないんだよ! 星間法の常識でしょ! 学校で習わなかったの? 勉強できない子? 教えてあげようか?」
「だからちょくちょく出てくるSF設定なんですか⁉︎ 習ってないですっ」

 あとこんな謎のマスコット的存在になっても面倒見はいいのなに? 

「とにかく、みんなを助けられるのは心寧だけなんだよ!」
「わたし、だけ……」

 その言葉に胸がドキリとする。わたしのことを必要としてくれてるんだ……。

「美容魔法少女は元々の美容意識が低い子じゃないとなれないからね! この辺りで一番美容意識が低そうだったのが君だったんだよ!」
「ただの悪口じゃないですか! 低そうってなんですか⁉︎ 何判断なんですかぁ⁉︎」

 わたしのドキリを返せ!

「いや見た目が『最近イメチェンしたけど垢抜けきれてない陰キャ感』があったから」
「なんで見た目だけでそこまでわかるんですかぁ⁉︎ やっぱり星美くんですよね⁉︎ わたしのことバカにしてますよねぇ⁉︎」
「ちょ、落ち着いて? とにかく早く契約しよう」
「嫌ですっ!」
「そこをなんとか! 今なら分割手数料無料、お気に召さなかった場合には送料・手数料無料で返品も受け付けてますし、もちろん全額返金いたします!」
「怪しい通信販売やめてください!」


   *


「――ということで、美容魔法少女・心寧の誕生だよ!」
「あぁぁ場面転換のどさくさに紛れて勝手に契約させられてる……!」

 ぬるっと美容魔法少女に変身させられたわたしは、黒タイツの怪人・クレンジン軍曹と対峙する。ぅぅ、なんでわたしただの女子高生なのに変態と戦わなきゃいけないの……? 

 あとさらっと変身って書いたけどなんかフリルとリボンでフリフリのドレスみたいなのを着ています。なんでこういうところだけちゃんと魔法少女なの……?

「貴様、美魔女か!」
「その呼び方はなんか嫌なんですけどっ⁉︎ まだ高校生ですし……!」
「ええい、我々『女性はあるがままで美しい教』の邪魔立てをするなら貴様からそのメイクで作った仮面をクレンジングしてやる!」
「なんですかその思想強めの団体……⁉︎」
「この、ダブル洗顔不要でスルリとメイクを落とし、豊富に配合した美容成分で洗い上がりもバッチリのシュウ◯エムラのクレンジングオイルを食らえ!」
「無駄にいいやつ使ってますっ⁉︎」

 高級クレンジングオイルがわたしに向かって噴射され、すんでのところでそれを回避(慌ててコケたおかげで偶然避けれただけ)する。

「心寧、こっちも反撃だよ! この魔法のファンデーションを使って!」

 ぽい、とジルちゃんから渡されたのはファンデーションの容器だ。これでどう戦えと? 塗るの?

「あいつに向かってそれを投げて!」
「え、あ、はいっ――えぃ」
「ぶわっ、なんだ⁉︎」

 言われるがままファンデーションを投げると、ぶわっと白い粉が舞い上がりクレンジン軍曹を包み込む。

「今だ!」

 ジルちゃんは懐からマッチを取り出し、シュッ、と火を起こすと、ピン、とそれを投げた。

 ドカーンッッ!

 途端、巻き起こる爆発。爆風にフリルとリボンがはたはたと激しく煽られる。

 呆然と立ち尽くしその光景を眺めていると、黒々とした爆炎の向こうでボロボロになったクレンジン軍曹がパタリ、と倒れる。え、エグぅ……これもうわたしたちの方が悪人では……?

「……なんですか、これ?」
「何って粉塵爆発だけど?」
「全然魔法も美容も関係ない⁉︎」
「いやいや、ファンデーションだから、美容は関係あるよ」
「そんな使い方しないで!」

 というかわたし、渡されたファンデーション投げただけなんですけど⁉︎ 変身した意味⁉︎

 突如爆心地と化した住宅街で、ジルちゃんは可愛らしく笑う。

「これで今日もこの街の美容は守られたね!」
「他にもっと守るべきものがあったのでは⁉︎」


   *


「――っていう夢を見たんですけど……」
「高熱の時に見る悪夢か?」

 後日星美くんに話したらドン引きされました。


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