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『星美くんのプロデュース』連作SS「心寧をキラキラSNS女子にしよう作戦(9/10)」
九話『渋谷・蒼の洞窟』
展望台を下りる頃には、夜の帳が渋谷の街をすっぽりと覆っていた。十二月の夜気はボクらの体を冷たく撫で、心寧は首を竦めてふるり、と肩を震わせる。
「寒い?」
「あ、だ、大丈夫ですっ」
慌てて首を振る心寧の肩に、ボクはバッグから取り出したストールを掛けた。
「最後の場所も外だから、冷えないようにしないと」
「ぁ、りがとう、ございます……」
うっすら白く染まる息を吐きながら、ぽそり、と心寧は呟いた。
スクランブルスクエアから渋谷公園通りへと、人波に沿って歩いていく。
「――見えてきた」
ボクがそう言って指差した先には、青色のイルミネーションで彩られた並木。広げた枝が頭上を覆い、遠くまで光り続ける道はその名の通り――
「――『蒼の洞窟』だ」
しんと冷たい空気に青い輝きが冴え渡るその光景は、とても幻想的だった。
「……綺麗、ですね」
通りを歩きながら、隣で同じ景色を見つめる心寧の横顔をそっと窺う。ダークブラウンの瞳は零れんばかりに見開かれ、その表面に青い煌めきが反射する。
「――――星美くん? 見惚れちゃってました?」
「……へっ!? いや、別に見惚れては――」
突然こちらを向いた心寧の問いかけに狼狽しながら答えると、
「そうですか……? こんなに綺麗なのに」
「あ……見惚れる、って、そっちのことね……」
「え? 他に何が?」
勘違いしていたことに気づいて思わず呟くと、心寧は不思議そうに首を傾げる。
「……ううん、なんでもない。写真撮るよ」
そう言って、ボクはスマホを構えて心寧の姿を画面に映す。
「……あー、暗くて顔があんまり映らないかも」
「それじゃあ、写真撮る意味もあんまりないですねっ」
ボクの言葉に、心寧はおかしそうに肩を揺らした。
画面の中、その表情は夜の闇とイルミネーションの灯りの狭間に隠れてしまっていたけれど。
顔を上げた先にある彼女の笑顔は、ボクの目にだけははっきりと映っていた。