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『星美くんのプロデュース』バレンタインSS(2/3)


『ハッピーバレンタ陰・チョコ準備編 〜星美サイド〜 』


 バレンタインはあまり好きじゃない。

 なぜなら――

「次郎ー、今年もバレンタインお願いね」
「えぇぇ、姉ちゃん、いい加減に自分で作りなよ……」
「一緒に作ってはいるじゃん」
「でも面倒くさい工程は九割方僕にやらせるだろ!」

 ――姉の一希が周りの子にあげるチョコを僕に作らせるからだ。

 日頃の炊事を担当しているだけでなく、ちょくちょく姉の「これ食べたい」というワガママに応えて簡単なお菓子作りなんかもしていたせいで、いつの間にかバレンタインまで駆り出される始末だ。

「ほとんど弟に作らせたチョコを手作りだって言ってあげるんだからな……とんだ詐欺だよ」
「でも私も手を出しているから『手作り』でも嘘じゃないでしょ?」
「嘘でもないけど本当でもないところがズルいって言ってるんだよ!」

 白々しい言い訳をする姉に僕はげんなりする。こんな性格だが、外面と見てくれは良いので同性にもよくモテるらしい。世も末だ。

「多少ズルい方が生きやすいのよ。つーか次郎、そんな小せーこと言ってるからモテないんだぞー」
「勝手にモテないって決めつけるな! 去年だって結構チョコもらったし」
「いや義理だろ、明らかに。お徳用チョコみたいなのもらってたくせに」
「ぐっ……!」

 僕の張った薄い見栄をびりびりと破りながら、一希はふと思いついたように言う。

「あぁ、でも今年は本命もらえるのか」
「……え? 誰から?」

 なんで姉にそんなことがわかるんだ?

「いや心寧ちゃんでしょ」
「……はぁ!?」

 何言ってんだ、みたいな蔑むような目をする一希の言葉に思わず大きな声が出た。

「いやうるさ」
「姉ちゃん、なんか誤解してるみたいだけど、僕と心寧はそういうんじゃないから! 言っただろ、心寧とは契約関係なんだって」
「はいはい契約関係ねー。高校生が一丁前な言葉使っちゃって」
「うるさいなー! ごちゃごちゃ言うならもうチョコ作らないからな!」
「えー、そしたらもうコスメとか服の予算も出さないけどー?」
「ぅぐぐっ……!」

 にやにやとからかうような笑みを浮かべる一希。そこを持ち出されてしまっては僕に抵抗の余地はない。

「まぁまぁ、材料費は私が出すし、多めに買って心寧ちゃんの分も作っていいからさ」
「わかったよ――っていうか、なんで『心寧が僕にくれる』って話から『僕が心寧に作る』ことになってるんだよ!」
「いいじゃんどっちでも。ほら、心寧ちゃん甘いもの好きだし、あげたら喜ぶよ」
「作らないよ、別に!」


   *


 そしてバレンタイン前日。

「――はい、姉ちゃん、できたよ。……ったく、毎度思うけど十何人分ものチョコを量産させられるって、僕は業者か!」
「なんだよ、私だって手伝ったじゃん」
「作り終わる頃にやってきて、仕上げと洗い物やったくらいだろ! 子どもの手伝い程度で威張るな!」
「てか、可愛くラッピングまでしてくれちゃって、ホントにお前はマメだなー」
「人の話聞いてた!?」
「って、あれ? なんか一個多くない?」

 僕の抗議を無視して、いち、にぃ、とリビングのテーブルに置いたチョコレートの包みを数えていた姉だったが、数える手を止めるとこちらを見遣る。

「……いや、その、一個は姉ちゃんのじゃなくて、僕のだから」
「へぇー?」

 何気なく答えたけれど、どうしても生まれてしまった一瞬の間に、姉はにやり、と口角をあげる。

「なんだよー、やっぱり心寧ちゃんにあげるんじゃーん」
「べ、別に誰にあげるとも言ってないだろ!」
「じゃあ誰にあげるんだよー?」
「…………じ、自分用だよ」
「自分用!? お前は独り身の寂しいOLか!」
「うるさいなぁ! 言われた通り作ったんだからもう絡んでくるなよ!」
「うぅっ、弟にそんな反抗期みたいな反応されると、お姉ちゃん、うぅ、――」
「あぁもう、泣き真似とか鬱陶しいから――」
「――お姉ちゃん、もっとからかいたくなるんだよなー」
「あぁもう、うっざ!」
「ねぇねぇ、明日は家に心寧ちゃん呼びなよ。そんで私の前でチョコ渡せ」
「嫌だよっ! なんだそのテンション! 絶対呼ばないからな!」

 姉とギャーギャー言い合いながら、僕は心――じゃなくて自分用のチョコを確保して部屋に逃げた。

 さて、問題はこれをどういうタイミングで渡すかだけど……。

 ……いや、別に自分用だし、渡すとかないですけどね?


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