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心の性感帯

もう会うこともないだろう男の代わりと言っては何だが、最近彼とよく似た男と逢瀬を繰り返している。

先述したもう会うことのない男はマリオくん。出会いはTwitter。彼が紡ぐ言葉のニュアンスや表現が刺さったし、実際会った時の高身長ですらっとした体型とタレ目がとても好みだった。彼とは住んでいるところが離れていたので頻繁には会えなかったが、ひとたび会えばそれまでの空白の時間が嘘のように話が尽きず、さらには沈黙でさえも心地よく居心地が最高だった。側から見れば不純な関係でもあったが、身体を重ねているときは恋人同士のような感覚に陥れる数少ない男だった。
「美人、可愛い」と私を褒めることはあっても決して「好き」とは言わず名前を呼ぶこともないところが関係に一線を引いている気がして逆に誠実だと思った。
ただ、彼氏彼女ではない関係など永遠に続くわけもなく、コロナ禍と物理的な距離が私たちを疎遠にさせた。この2,3年の間にわたしの価値観が少し変化してしまったこともあるのかもしれないが、私なら大抵のことは許してくれるだろうという彼の甘い考えが透けて見えてきてしまった。
あんなに嬉しかった連絡もそうではなくなり、やり取りを重ねながら勝手なのは承知だが「この程度の男だったのか」と思うことが増えた。潮時だ。

そんな彼と入れ違いで出会ったのがマリオくんとよく似た男の米津くん。米津玄師ばりに背が高くて女心の分かる面白い男。顔が似ている訳ではないのに何故かマリオくんを彷彿とさせる彼は、絶妙なタイミングで連絡をくれるし話していて楽しく、会ったからといって必ずセックスを迫らないところも心地よい。何より住んでいるところが近いのでコロナ禍でも気兼ねなく会える。
そんな彼と会うようになって1年が経つが、ひとつだけ彼に秘密にしていることがある。それは身体を重ねるとき、たまにマリオくんとの情事を思い出してしまうこと。彼との相性が良くないとかではない。自分でも分からないのだが、気づいたら米津くんにマリオくんとの思い出を重ね合わせている。別な男のことを考えながらするセックスも悪くない。新たな性癖をもたらせてくれてありがとう。

思い出は美化されると言うけれどまさにその通りで、自分からフェードアウトしたのに思い出すのは楽しかった全盛期のあれこれ。きっと良い思い出のまま終わっているのは絶妙なタイミングで関係に終止符を打ったからだと思っている。

本命だろうが都合のいい関係だろうが、関係を始めようが終わらせようが、結局は物理的距離とタイミングがとても重要であることは変わらない。けれど思い出は綺麗なままで変わらず私の心を刺激し続ける。そんな思い出がこれからも増えることを願おう。

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