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月イチボカロ曲レビュー 2024年11月編
取り上げる楽曲の条件など概要は10月編にて
蠅と梨 / 橘しとら feat.初音ミク
バリエーション豊かな軽やかな電子音が楽曲の展開を彩る。可愛らしい初音ミクの歌声と親和性抜群なサウンドにはコロコロとした印象が漂っており、ところどころ登場するリズミカルな譜割り、サウンド感合わせて聴き心地が良い。軽やかに発せられる悲壮感のある歌詞とのギャップが好き。
『isomers』ǢǪ
「苦しくてもいいから寂しくいたいよ」「可愛く息をしたいよ」等、ふとした瞬間の歌詞の説得力、有無を言わせない感情の表現がすごい。
決して派手なわけではないのだが、展開による音数の増減や音色の変化は、楽曲の主人公の心情を示す迫力がある。およそ2分の後奏を含める6分にわたる長編の楽曲で、ロードムービーでも観たかのような充足感が詰まっている。良い作品を読んだ、観たあとの呆然とするあの感じがある。
『ふたりだけの閉じたせかい / 初音ミク』落合一十
オルタナティブロック漂う楽曲。歪んだギターと変拍子のサウンド、時折リバーブのかかる初音ミクの歌声の相性が抜群に良い。変拍子のサウンドにゆらゆらと身をゆだねながら聴く感じ。途中激しいギターソロが挟まれようと熱を持たないミクの歌声に温度差が感じられて好ましい。
天国 / ひらぎ × 初音ミク (long ver.)
とにかく苦しくなるくらい穏やかな楽曲。軽快なアコースティックギターの音色と歌い出しの歌詞も相まって、爽やかな一日の始まりの幸福を印象付ける。たまたま気持ちよく早朝に起きられて、早起きは三文の徳だなあなんて思う日のよう。ひらぎ氏の心地良い低音のハモりとのバランス感も良い。
『酸素になって、サイダー。/ 初音ミク』ヲヲタ
疾走感のあるイントロからAメロの流れがたまらなく好き。2サビの最後「飲み干してみせるから」後に残る余韻も良い。Dメロ後半「それでもいいから」のメロディーから展開していく、大サビに向かって焦らされる感じと高揚感、同セクション最後の「抜けない炭酸があったでしょ」で抑えられつつも最高潮になるわくわく感がたまらない。2010年代邦楽ロックシーンが盛り上がっていた頃を思い出す。
水曜日を休みにして/ 鏡音リン [EO(エオ)]
Bメロのピアノが好き、サビのメロディーが癖になる。楽曲のテーマからは想像できないくらい終始おしゃれな楽曲。サウンド感の印象からか、楽曲全体になんとなく漂うくぐもった印象はテーマを抽象的に反映しているよう。
『瞬夏秋燈 / 星界』mawari
令和流季節ソング。まさしく茹だる暑さの夏だったから生まれた、夏と秋の狭間を美しく歌った楽曲。ストリングスの爽やかさと星界の抑揚のある歌声とサビの裏声が気持ちいい。夏から秋にかけての色、風、気温の変化を様々に歌う歌詞のセンスも聴きどころ。落ちサビで「伝えたい 伝えられない弱さ 秘密のままだよ」と心情めいたフレーズが挟まれることで想像の余地を膨らませてくれる。ラスサビの「夏よ過ぎ去れ」、「どんな寒さに凍えたとしても」の対比のようなフレーズもとっても好き。今年暑かったね、こんなことがあったね、と思い出話に花を咲かせたくなる。
執筆した紹介記事は以下。
「死別」 / Shannon feat. GUMI
ほとんど起伏のない曲調とともに思い出を回想するような歌詞と「僕らの最後は死別にしよう 嫌いになるなら尚更だね」「さよなら夏」を淡々とGUMIが歌っている、その趣こそがこの楽曲の魅力のように思う。楽曲から漂うこの物悲しさにはちょっと身に覚えがあるのだけど、卒業式だろうか、「みんなのうた」かなにかでたまに流れていた暗い楽曲の類だろうか。どちらにせよ昔感じていたもの悲しい感情をひっくり返されているような気がして、不思議な気持ちになる。
瀬名航 - 初の音 feat.初音ミク
初音ミクがシンガーとして輝いている気がするのは、音域や音色が考慮されたサウンドのバランスとミックスによるものだろう。王道というには様々な意匠がこらされているけれど、JPOPの魅力が取り込まれている初音ミクによるポップソング。
『痛みに餞の言葉を/初音ミク』quxono
今っぽい調声の初音ミク。ぐいぐい引っ張っていく感じのテンポ感や1サビに行くまでのからっとした感じも好き。
『ニューワタシ革命 / 花奏』shikisai
颯爽としたギターが率いるイントロから気持ちいい。1Aメロ、1Bメロのキャッチーなメロディーが好き。Dメロのメロディーがまた良いのだけど、出し惜しみせずになだれ込んでいく展開がさっぱりしていて良い。
『宇宙船東京号 / 星海メリル』霧四面体
曲調と歌詞の言葉選びがすごく好き。変拍子楽曲投稿祭の参加曲と言うが、もはや1曲で変拍子祭。絶え間なく拍子が変化していくので、いっそのこと拍子という概念をなくしてしまいたくなる。ただその演出が音声合成ソフトと相性が良さそうで、SF作品にいる高性能なロボットらしき雰囲気を少し感じた。また拍子の違いを楽曲の展開として使っている部分とそうでない部分があって、その違いも面白い。ボカコレアプリで見つけてかなり驚いた曲だが、MVだと拍子とコードが常に書かれていてより感心するので見ながら聴いてほしい。
Achromatic World / 嘆きのP feat.花隈千冬
花隈千冬のミックスボイスとギターの音色の組み合わせが良い。バンドサウンドの音色やフレーズの感じがどことなく中規模のライブハウスにいるバンドを彷彿とさせていて、その雰囲気込みで好き。
オレンジ・ムーン / ねじ式 feat. SV 花響 琴
花響琴の声の格好よさとファルセットの抜け感が発揮された音域が聴いていて気持ちいい。ゴージャスな曲調もボーカルにぴったりで、ボーカルの人物像みたいなものが見えてくる。
ジグ - そっちにいかないで (feat. 初音ミク)
起伏の少ないトラックに乗るミクの歌声が寂しげなのだけど、淡々とした歌い方とどこか毅然とした歌詞に強い意思を感じる。サビ直前からサビに向かう瞬間にEDMを感じるのがシンプルながら高揚感があって、これがサビの良メロディーに続くのがいい。
先月編はこちら
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