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とあるアイドルオタクの独白

私の青春が終わる。

私の神様のいのちが、絶える。

大好きなアイドルがいる。
好きで好きでどうしようもなくて、テレビ番組をチェックしたり、グッズを集めたり、CDを買って聴きこんだり、コンサートに足を運んだりしている。

うぬぼれている私は、ほんの少しだけ、他人よりアンラッキーな人生になってしまったなと思っているのだけど、そんな私と、ずっとずっと、10年以上一緒にいてくれたアイドルがいる。

私に、ポジティブな感情を与え続けてくれたアイドルがいる。

そのアイドルが、今日をもって、活動を休止する。

彼らは、私より一回り以上年上で、出逢ったときこそ「お兄さん」だったけれど、「おじさん」の方がしっくりくるようになって数年が経った。

ダンスだって歌だって、とびっきり上手なメンバーが集まったグループというわけでもなくて。
事務所のフレッシュな後輩たちの方が、美しいパフォーマンスができる。

闘争心もあんまりなくて、グループのセンターに価値を感じていないから、いつも現場では最後に到着したメンバーがセンターに入れられる。

それでいてチャレンジ精神にあふれていて、アラフォーのおじさんのくせにSNSを始めてみたりなんかして。
彼らのコンサートは、大きな会場の隅々までこだわり抜かれて、いつも新しいなにかを取り入れては、エンターテイメントの可能性を私たちに提示していた。

常に、エンターテイメントの最前線を走っている。
いや、走っていた。
今日までは。

彼らは、最前線から消えることを選んだ。

私が好きになった彼らは、増えることも減ることもしない、他の誰でもない、オリジナルのメンバーでいることにこだわる彼らだった。
だから、彼らがグループ活動をやめると知ったとき、安堵した。

彼らは、永遠になるのだ、と思って。

彼らのコンサートに行ったときのことだ。
セットリストの一番最初、彼らの姿が見えた瞬間に、泣いたことがある。
嬉しくて、ただ嬉しくて泣いた。

人は悲しみだけでなく、幸せでも泣けるのだと知った。
その瞬間彼らは私にとって、あこがれのアイドルを越えて、全知全能の神様になってしまった。

しかしその神様も、今日で死んでしまうのだ。
私にとって神様は、メンバーひとりひとりのことではなくて、グループという運命共同体そのものだった。
だから、今日、私の神様は死んでしまう。

誰かが言った。
「愛するものを殺そうとしている」と。

私も、彼らを殺そうとしている。
今まで生きるためのよすがにしていた彼らに、別れを告げるために。

担降り、というものが出来ればいいのだけれど、あいにく私はそこまで器用じゃない。
ファンクラブの継続を決めてしまったし、明日以降のメンバーの活動だって、必死こいて追いかけるつもりでいる。

でも私は、彼らを終わらせたい。
彼らに、さよならを言いたい。

彼らを応援してきて11年、楽しいことだけじゃなかった。
苦しいこともあったし、つらいこともあったし、やりきれないこともあった。
彼らばかりが悪いわけではない。
しかしそれは、アイドルというコンテンツから受ける痛みとしてはあまりにも生々しく、私に傷をつけた。

思うに、私は彼らに依存しすぎたのだ。
うまく行かない毎日の代わりとしての救いを、彼らばかりに求めてきた。
でもこの先も自分が生きるためには、それではいけない。

だから、彼らが終わるんじゃない。
私が終わらせるのだ。
彼らにさよならを言って、傷をなおして、キレイな思い出だけ抱えて、彼らのファンとしての私は、眠りにつきたい。

美しかった彼らのことを、美しいままで、思い出にするために。
宝箱に、しまうために。

きっと私は、彼らのことが一生好きだろうし、彼らというグループのことを、ずっと憶えているだろう。

しかし、もしもいつか、彼らが再びグループ活動をすると決めたとき、私には彼らを今のように応援できる自信がない。
そりゃあもちろん、いつか彼らが戻ってきたら嬉しいだろう。
でも、そのときまでファンクラブ会員でいつづけられるかと聞かれたら、胸を張ってイエスと答えることが、今の私にはできない。
なぜなら、今日この日まで、いろいろあったし、私も、彼らも、時を重ねたし、なにより、これからも重ねていかなくてはならないのだから。

不変のものなどないのだから、いつかは彼らを超える存在が現れるだろう。
でも、彼らが今を超えることは、きっと、できない。

だから今、終わらせなきゃいけない。
私が愛するエンターテイメントを、私が愛せるままで。

今日、私は、彼らを過去にする。

それが、彼らと共に生まれ、彼らの半分を自分の半分として過ごしてきた、何百万といるファンの中のちっぽけなひとりの、ささいな結論。

21年間、勤続お疲れさまでした。
本当に本当に、心のそこから、愛していました。

さよなら、嵐。

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