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恋愛小説|恋の観察日記 5話:放課後のふたりと恋の報告
※一条岬さんの『今夜、世界からこの恋が消えても』のオマージュ作品です。
付き合う取り決めを交わした僕と葵は放課後の教室で色んな事を話していた。
「それじゃ早速だけど、壮馬のこと聞いてもいい?」
「幼馴染なのに僕に聞くことなんてある?」
僕は笑いながら葵に言った。
「あるよ〜誕生日とか血液型とか」
「好きな物とかは教えられるけど、流石に誕生日と血液型知ってるよね?」
「知ってるけど、改めて壮馬のこと知りたくて」
「わかった。いいよ」
僕がそう言うと葵はメモ帳代わりにスマホを取り出し色々と尋ねてきた。
「まず、誕生日は?」
「3月10日」
「おっけ〜3月10日っと。え!私の推しと誕生日同じなんだ!」
「中学から推してるあのアイドルね。そうだよ、同じ誕生日だよ」
「次、家族構成は?」
「中学の時に両親を亡くしてから姉と二人暮らし」
「なるほど、そうだったね。じゃ、血液型は?」
「O型」
「昔から人気者だったもんね〜」
「そんなことないよ、そういう葵は?」
「Bです」
「昔からマイペースだったよね」
「おっ、なんか蔑まされた」
「別に蔑んでないよ。他に質問は?」
「尊敬する人は?」
「西川景子」
「確か中学から好きな小説家だっけ?」
「そうだよ」
「その人のどんなところが好きなの?」
「衛生感があるところかな」
「衛生感?清潔感じゃなくて?」
「清潔感は装えるけど、衛生感は装うことが出来ないと思ってる」
「やっぱり、壮馬って面白いよね」
それから葵は様々な事を僕に聞いてきた。
趣味や好きな芸能人、好きな映画などなど。僕から聞き返すとほとんどの事に葵は応じてくれる。
夕日が顔を出す時間になると、何を思ったのか葵はこんな事を提案してきた。
「ねぇ、恋人っぽいことしてみようよ!」
葵の言う恋人っぽいことというのは、スマホで写真を撮ることだった。
オレンジ色の背景となっている教室で撮影をした。
「この写真、お互い待ち受けにしようよ!」
撮影した写真を葵から送ってもらって、スマホの待ち受けにしようと持ちかけられたが断った。
お互い電車通学で家が隣同士のため駅まで一緒に歩いて向かった。
葵は楽しそうに自分の影を追う。
「壮馬、これからは一緒に下校しようね」
葵は笑いながらそう言った。
電車に乗り並んで座席に座りお喋りをする。
学校からお互いの家までは電車で30分くらいである。家の近くの最寄駅からは家までは徒歩10分のところにある。
「また明日ね」
「うん」
そう言ってお互い家の中に入った。
「壮馬、ただいま〜」
家に帰ってからキッチンで晩御飯の準備をしているとリビングのドアが開く音がした。しばらくして姉さんがキッチンに顔を出した。
「おかえり」
「今日のご飯何?」
「カレーだよ」
「いい匂い〜」
僕には歳の離れた姉が一人いる。僕が中学生の時に両親は事故に遭い亡くなり、それから僕は姉と二人で暮らしている。
「そういえば、姉さん。恋人が出来たから一応報告しておくね」
「え……?」
僕の律儀な報告に姉さんは目を丸くした。二人で暮らすようになってから姉さんの提案で『重要なことは姉弟の間で報告し合う』ことが決まっている。「そっか、壮馬もそういう歳だもんね」
「別に何か変わる訳じゃないから一応、報告だけ」
恋人が出来たからといって、僕の日常が劇的に変わるわけじゃない。
翌日はいつも通り学校に向かった。気が付くと電車の中や通学路や昇降口で葵や高橋を探している自分がいた。新鮮な気持ちだった。
教室では井上くんと話す。
「ちょっと聞いてもらいたいことがあって」
井上くんはいつも何かしらの問題などを抱えていてそれを僕に話してくれる。今日の話はいつもと違った。
「実は僕、来月に転校しちゃうんだよね」
「え、」
嫌がらせが原因でないと願いたいが井上くんは親の仕事の都合で他県の高校への転校が急に決まっていた。
「僕は転校しちゃうけど、その後に壮馬くんがまた嫌がらせされたりしないかなって心配なんだよね」
「まぁ、その時はその時だよ。考え込まなくていいからさ転校までのんびり過ごそうよ」
僕がそう応じると、井上くんは何かを考え込んでいたものの
「うん、そうだね」
そう言って頷いた。
放課後になると僕は昨日に引き続き葵のことを待つ間に井上くんと話していた。
「壮馬くんって本当優しいよね」
「そうかな?」
「だって、いつも僕を励ますような言葉を投げかけてくれるから、実は恵まれてるのかなって思って」
悔いを残す発言をしながらも、どこかサッパリとした口調で井上くんはそう言った。
「自分から行動して女の子と仲良くなれたら良かったんだけどね」
そんな彼を前に僕は頬を緩めた。
「転校先では、女の子と仲良くなったらいいよ。きっと新しい環境になったらチャンスはあると思うよ」
「そうだと良いな。そうなったら、壮馬くんにも紹介するよ。あ、でも、藤原さんに怒られちゃうかな?」
井上くんは僕と葵が疑似恋人であることを知らない。楽しそうに話す井上くんに僕は曖昧に微笑んだ。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
井上くんは手を上げて僕に挨拶すると、教室から出て行った。