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短編小説:遠いキミ


「ちゃんと食べれてる?」
「食べれてるよ〜本当、心配性なんだから」

消毒液の匂いが広がる。
ペタペタとナースシューズの音がする。
そして目の前にある決まった食事。

僕の彼女の結衣は脳の病気で入院中である。
僕は結衣からこの事を聞かされた時、頭の中が真っ白になった。

「ねぇ、優斗?」
「なに?」
いつも通りの会話が一瞬にして凍りついた。
「私ね、余命があと3年なんだって……。」
「は・・・?」
僕には意味が分からなかった。
目の前で涙を流す愛おしい結衣。
「急だよね、私はまだ優斗と一緒に居たいのに」
そういって、結衣は涙を流しながら僕の方を見つめた。
「そうなんだ・・・大丈夫、俺が絶対に守るから」
今はただ、結衣に慰めの言葉をかけることしかできなかった。


ある日彼女の病室に行くと、部屋の中から大きな音がしていた。
急いで彼女の病室に入ると
「もう、無理、早く楽になりたい」
結衣の手にはカッターあり、自らを傷つけようとしていた
「結衣!」
僕はすぐに結衣の手からカッターを取り上げようとした。
「日に日に衰えていく自分にもう耐えられないの」
そういって結衣は暴れ出した。
僕は結衣を抱きしめた。
「優斗……」
振り回すカッターの刃が少しだけ顔に触れ、僕の頬から赤いものが少し流れた。

「辛かったら、全部俺に言ってよ。結衣のためだったら俺はなんでもするからそんな悲しいこと言わないで」
すると結衣は持っていたカッターを病室の床に落とした。

その日の夜
「私ね怖いの、怖くて夜も眠れないの」
僕は結衣のそばで彼女の話に耳を傾けた。
「大丈夫、俺が毎日一緒にいるから」
そう言って結衣の背中に手を当てた時、彼女の体は震えていた。
「優斗、傷つけてごめん」
そう言って、結衣は僕の顔に付いた傷に触れた
「結衣の為なら、これくらい平気だよ」
僕はこの日、結衣の持つ寂しさを紛らわすために手を繋いだ。


あれから3年後

結衣は、空に行ってしまった。
「あの、これ結衣が優斗さんにって」
結衣のお兄さんから一通の手紙を貰った。
結衣のお葬式後、2人でよく行った公園のベンチに座った。

「優斗へ
 これを読んでいる時、私はもう居ないのかな?
 泣いてない?って泣いてるよね。こんな弱い私でごめんなさい。
 だけど、優斗と一緒に居た時間は本当に楽しかった
 いつも笑顔にしてくれる優斗が大好きだった
 本当はずっと傍に居たかったけど、これからは優斗のことを幸せにしてく
 れる人と一緒に居てください。
 そして私の分まで生きてください今までありがとう愛してます。  
                               結衣」

読み終わる頃には文字が涙で見えなかった。
「何言ってんだよ、お前しか居ないよ」
僕はポケットから小さな箱を取り出した。
「本当は退院したら渡すはずだったのにな」
箱の中には結衣が退院した時に渡すはずだった指輪が入っていた。
そして空を見上げた。
「結衣が俺にとって最初で最後の人だよ俺、頑張るから」

目の前には青い空が広がっていた。



次回から長編小説を投稿します!

















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