その好きはどう言う意味合い?
私が記憶にある中で、夫が私に「嫌い」と言ったのは一度だけだった。
遡ること2年ほど前。
私が妊娠中のことである。
「そういうところは嫌い」ではなく、やり取りの途中で「嫌いやわ」といった感じで発せられた言葉だった。
夫の弁解としは「そう言うところがイヤ」と言いたかったけど言葉を選び間違えた。とのこと。
私にしてみれば「嫌い」と言うか「イヤ」と言うかの選択を間違えたことなどどうでもよかった。
人を馬鹿にした人の口から出る「好き」も「嫌い」も私には微塵も響かなかった。
今回の本題はここなのである。
私が妊娠中はよく夫と衝突し、怒鳴り合うことも少なくなかった。
少なくないと言うより、妊娠期間の半分以上はイライラしていたんじゃないかと思うほど。
まあ、妥協点が見つかることはなく、話は平行線を辿るんだけど。
あの日は1時間目からピアノだった。
暑い日だったのか寒い日だったのか覚えていない。
ただ、その日の夫の機嫌と私の機嫌は最悪だった。
言い合っているんだから機嫌がいいはずはないことは分かりきっていると思うが。
ピアノがズラッと整列している教室の扉を開けると同じ学年の子が1人か2人ほど。
反対側には4回生が2人ほどすでに座って鍵盤を叩いていたと思う。
絶対うるさいだろと思っていたが止まらない夫。
荷物を床に置き、喉が渇いたから水でも飲もうかとリュックから取り出した後だった。
「低脳」
開かれた夫の口から出てきた言葉は、漢字にして2文字。ひらがなにして4文字の単語だった。
その前後の会話は一切覚えていない。
その言葉が投げかけられた私は、水の入った未開封のペットボトルを持ったまま苦笑いするしかなかった。
絶望とか傷心とか。悲しいとすら思えなかった。
何も言い返す気が起きず、私はその場を後にした。
あぁ、教室に帰りたくない。顔を合わせたくない。
水を飲み終わった後、何をするでもなく椅子に座り込んだ。
ピアノの練習をしなければならないことくらい、私の技量を考えれば誰でもわかるのに。
「低脳」と言われた後、フル無視するかのように教室を出てきたので、「何か言うことないんかよ」とか絡まれると面倒だなと思ったのである。
夫が私を「低脳」と言った時、何を思っていたのかは知らない。
でも私が笑ったことは見ていた。
私は大人げない人間なので、「低脳」と夫に言われたからと言ってそれ以降の夫の発言に対して反論しない等という選択肢を取らない。
相変わらずヒートアップしていくのがオチなのである。
どんな風の吹き回しかは覚えていないが、夫に「低脳ってどう言う意味で言ったのか」を聞く機会があった。
私が納得できる返事ではなかったが。
そもそも「低脳」と言う人の弁解に納得できるものはあるのだろうか。
少なくとも私はないと思う。
夫曰く、「私が笑っていたから低脳と言ったことは冗談として受け止めとったんやろ」と。
どっちかが笑っていれば馬鹿にしても冗談として受け止めるというのが夫の考えらしい。
知らんかったわ。
夫がそう言う考えだと言うことも、そんな考えを持っている人がいることも。
ただ、私は大人げない上に情緒不安定な人間なので時々夫にこう聞いてみるのである。
「私のこと好き?」と。
夫からは遠回りをしても必ずこう返ってくる。
「好き」と。
私はそんな夫に聞きたい。
低脳だと"馬鹿にした"私の何が好きなわけ?
と。