水墨画のなかの相対性

水墨画の主な描法に2つあり、ひとつを「側筆(そくひつ)」、もうひとつを「直筆(ちょくひつ)」という。

「側筆(そくひつ)」は、筆先が線の片側にむいた描き方で、硬いもの、力強いもの、雄大なものなどの表現に用いられる。
山、岩、大地、竹なら竹の幹、植物なら葉っぱなど。

一方、「直筆(ちょくひつ)」はデリケートなもの、柔らかいもの、繊細なものの表現に用いられる。筆先は、線の中央を通るように描く。
花なら花びら、人物なら人の肌、竹なら竹の葉など。

水墨画のように、一本の筆で作品全体を描くような絵画芸術では、筆先がどこを向き、どこを通るかで絵の表情がかわっていくので、筆先の向きが常に気にされている。

すべての水墨画作品は、この「側筆(そくひつ)」と「直筆(ちょくひつ)」で成り立っていて、お互いが隣同士に組み合わさって、コントラストを生むように絵が構成されている。

これを念頭に入れて古典作品などを見てみれば、その構成の巧みさに驚く。ただただ人物をそこにおいている訳でもなく、ただただ、岩と滝をそこに於いている訳でもない。必然の出会いでもあったかのように、絵画上にみごとに表されている。

さらっと描かれたように見える水墨画も、よく考えられ、練られた構成の上に描かれているのがわかり、巧みに生み出される「コントラスト」を目で追っていくうちに、絵のなかにより深く入り込み、主題が胸にせまり、圧倒されていく。


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