桜川りも

時代を変えるのは、最新テクノロジーよりも、人間の価値観の変化だと思っています。 現代で…

桜川りも

時代を変えるのは、最新テクノロジーよりも、人間の価値観の変化だと思っています。 現代で私たちが当たり前だと受けれいていることは、少し先の未来から見ると、あり得ない誤った価値観かもしれない。そんな疑問から小説を書くことにしました。

最近の記事

最終話 連載小説 2020年代という過去<10章 未来から来た理由> #10-3 空

目次 前話 10章 生きづらい時代 #10-2 遺伝子を残せなくても  眩しい光の中に浮かんでいる感覚に包まれ、純は瞼を開いた。段々と焦点が合ってくると、見覚えの無い無機質な天井と向かい合っていることに気付く。 「純さん、お目覚めですか?」  どこからともなく声が聞こえる。どこかで聞いたことがある声のような気がするが、意識が朦朧として考えられない。 「もうすぐドクターが来ますのでお待ちください」  ぼんやりとしていた感覚を取り戻しながら、純は声の主に気付いた。 “ゼウス!

    • 連載小説 2020年代という過去<10章 生きづらい時代> #10−2 遺伝子を残せなくても

      目次 前話 10章 未来から来た理由 #10-1 生きづらい時代 「タイムスリップの理由? どんな?」 「純と私、それぞれの時代で頑張れるように、私たちを出会わせてくれたんじゃないかな。私は純が大好きだし、純の時代は素敵だと思う。未来の世界が今よりも住みやすく、自分自身を尊重して生きられるって知ったことで、未来は明るいと信じられるし、その時代を作っていく一人になれることを嬉しいって思えたの。純はたぶん、今のこの時代のことを知って、純の時代が作られた歴史を知って、未来に戻っ

      • 連載小説 2020年代という過去<10章 未来から来た理由> #10-1 生きづらい時代

        目次 前話 9章 変化 #9-4 わきまえない女  9月に入ってから、コロナウィルスの第2波は落ち着きを見せ始めていた。8月頭には500人に迫る勢いであった東京の一日の新規感染者数は、9月後半になると100人を切ることも珍しくなくなっていた。  もう長い間、毎日夕方に発表される感染者数をチェックすることが、麗華の日課になっている。仕事の合間に珈琲を淹れながら携帯でネットニュースを見ていた麗華が純に話しかける。 「今日の感染者数は65人だって。いやあ、長かったけど、ついに終

        • 連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9−4 わきまえない女

          目次 前話 9章 変化 #9-3 セクハラのボーダーライン  麗華は、自分の部下たちとのフィードバック面談を全て終わらせ、残るは自分が部下側となるフィードバック面談のみとなった。通常、課長に対するフィードバックは部長が行うのだが、麗華だけは特例で、沢口事業部長と面談をすることになっていた。  沢口との面談のため、オンライン会議に参加すると、先に入っていた沢口がニコニコとした笑顔で待ち構えていた。その笑顔に萎縮しながら麗華から挨拶をする。 「あ、お待たせしてすみません。お

        最終話 連載小説 2020年代という過去<10章 未来から来た理由> #10-3 空

        • 連載小説 2020年代という過去<10章 生きづらい時代> #10−2 遺伝子を残せなくても

        • 連載小説 2020年代という過去<10章 未来から来た理由> #10-1 生きづらい時代

        • 連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9−4 わきまえない女

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9-3 セクハラのボーダーライン

          目次 前話 9章 変化 #9-2 男にどうしてほしいのか 「あ、京本さん、お疲れ様です」  麗華がオンライン会議に参加すると、戸山美香が挨拶をした。戸山は新卒で入社してまだ半年しか経っていない新人だ。彼女にとってはこれが初めてのフィードバック面談である。緊張した声にまだ学生のあどけなさが残っている。麗華はその初々しさを愛らしく思った。 「お疲れ様。なんか緊張してる?」 「あ、はい。課長にこんなマンツーマンの時間をもらえるなんて、正直緊張します」 「そっか。こうやって二人で

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9-3 セクハラのボーダーライン

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9−2 男にどうしてほしいのか

          目次 前話 9章 変化 #9-1 爽やかな離婚協議 「自分が結婚をしたいかどうかではなく、結婚をしてあげたと思ってたの?」 「お恥ずかしいですが、今思えばそういうところもあったなって」 「まあ、価値観は人それぞれだけど…」 「今となっては、偉そうな自己満足だった気がするんですよ。女性は男性より弱くないといけないなんて。実際、夏美は全然弱くなかった。僕に離婚を切り出した夏美の顔は、本当に凛としていて、かっこよかったんです。…僕より前を進んでいました」  尊は苦笑いをしながら

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9−2 男にどうしてほしいのか

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9-1 爽やかな離婚協議

          目次 前話 8章 戦い #8-5 脱却   麗華の会社は半年に一度、全社員の評価を行う。4月1日と10月1日の人事異動が多いため、評価期間が異動を跨がらないように、3月末と9月末で半年間の評価を実施するのだ。  その際、管理職社員は自分の部下全員に対してマンツーマンで評価を伝えるフィードバック面談を行う決まりがある。フィードバック面談とは名ばかりで、評価の告知はほんの数分で終わらせ、部下の悩み相談に時間を割く場合が多い。部下の精神状態によっては何時間でも面談を行うため、3

          連載小説 2020年代という過去<9章 変化> #9-1 爽やかな離婚協議

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−5 脱却

          目次 前話 8章 戦い #8-4 麗しい人生  夏美は悪気のない表情で続けた。 「もちろん私も、職場の男性たちが裏で自分たちを性的なネタにしているのは気分良くありません。でも仕方ないっていうか。それが男性たちのコミュニケーションの取り方なのかなと。実際、皆さんは盛り上がってらっしゃいますし、女性たちに対して悪気があるわけではないというか。女性はそうやって間接的に職場の雰囲気を良くするのが使命なのかなと」  応えようとする麗華を遮るように、純が割り込んだ。 「何言ってるんで

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−5 脱却

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8-4 麗しい人生

          目次 前話 8章 戦い #8 -3 華のない人生  空気を変えるように、麗華が少し明るいトーンで切り出した。 「ねえ、今度は私の話もしていいかな?」  純と夏美が驚いたように麗華の方に振り返り、ゆっくりと頷いた。 「私は北陸の田舎の出身でね、二人よりも随分古い環境で育ってると思うの。父は市役所に勤める公務員で、母は専業主婦で、父方の祖母も同居してて、3つ年上の兄がいて、5人家族で育ったの。…うちは、母親の立場は弱い家だった。父が母に『稼いでいるのは俺だ』とか『食わしてやっ

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8-4 麗しい人生

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−3 華のない人生

          目次 前話 8章 戦い #8-2 誤解  麗華は純の様子を見て、もう静止することを諦めていた。力無く座ったまま二人の会話を傍観してしまっていた。  純の夏美に対する攻撃は続く。 「おそらく尊さんが家に帰らない理由は、麗華でも私でもありません。夏美さんだと思いますよ」 「え…私? 私ですか?」 「尊さんが言ってました。夏美さんは周りに自慢するために尊さんと結婚しているんじゃないかって。その証拠にSNSに嘘の夫婦のエピソードをアップしてるんだって。そこで友達の反応を見ることで

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−3 華のない人生

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8-2 誤解

          目次 前話 8章 戦い #8 -1 招かれざる客  広場にはテーブルと椅子4脚のセットが多数設置されており、三人は木陰になっている一番隅のテーブルセットを選んだ。静かに座った後、麗華と純は黙って夏美を見つめ、今日の用件を切り出すのを待った。少しの沈黙の後、夏美は覚悟を決めたように小さくを息を吸って、麗華の目を見て話し始めた。 「今日は、京本さんに、尊さんと別れるお願いをしに参りました」 「え?」 「尊さんと別れてください」 「別れるも何も…どういうことですか?」  驚く麗

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8-2 誤解

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−1 招かれざる客

          目次 前話 7章 告白 #7-2 純から  休日の午後、麗華と純は二人でテレビを見ていた。東京をコロナウィルス感染の第2波が襲い、政府の対応を批判するニュースばかりが流れている。不安を紛らわすように純が麗華に話しかける。 「今日の晩御飯何にする?」 「うーん、時間があるから凝ったもの作ってもいいよね。スパイス買って、インドカレーとか?」 「えー、ちょっと面白そう」  共同生活ならではの穏やかな会話である。そんな平和な時間を切り裂くように、インターホンが鳴り響いた。 “ピン

          連載小説 2020年代という過去<8章 戦い> #8−1 招かれざる客

          連載小説 2020年代という過去<7章 告白> #7-2 純から

          目次 前話 7章 告白 #7-1 尊から 「お米、研ぎすぎじゃない?」  後ろから麗華に声をかけられて、純の肩がビクッと動いた。振り返ると、リモートワークをしていた寝室から麗華が笑顔を覗かせて、キッチンに立つ純を見ている。 「え? え?」 「いや、たぶん10分以上、お米研いでる音がしてるなって」 「ああ、ほんとだね。もういいかな」  純は夕食の準備をしながら、ぼんやりとしてしまっていたことに気付いた。思い掛けず動揺している純を見て、麗華が怪訝な顔で近付いてきた。 「大丈夫

          連載小説 2020年代という過去<7章 告白> #7-2 純から

          連載小説 2020年代という過去<7章 告白> #7−1 尊から

          目次 前話 6章 疑惑 #6-6 勝負服  8月になってやっと梅雨が明け、待ち構えていたような夏の暑さで、純はアラームより早く目が覚めた。気だるいため息と同時にうっすらと目を開けると、麗華が近くに立っているのが見えた。純が横になっているソファの側にある観葉植物の葉を一枚、人差し指でゆっくりと撫でている。カーテンを閉じているため、シルエットしか見えない。 「おはよう」  純の声に、麗華のシルエットがビクッと動いた。 「ああ、起きたんだ。おはよう」  そう言って、麗華がカーテ

          連載小説 2020年代という過去<7章 告白> #7−1 尊から

          連載小説 2020年代という過去<6章 疑惑> #6-6 勝負服

          目次 前話 6章 疑惑 #6-5 ファッション結婚  その日、尊と純が公園で語り始める10分ほど前、麗華は近所のカフェで仕事をしていた。家でパソコンと向き合うと集中力が持たないため、一日のうち数時間は近所のカフェで過ごすようにしている。  窓際の席に座って、メールの処理がひと段落した時、ふと見上げた先に予想しなかった光景を見つけ、麗華は目を疑った。  尊と純だ。二人が話しながら信号待ちをしている。笑顔で話しているわけではないが、二人の物理的な距離が近い。第三者から見ても、

          連載小説 2020年代という過去<6章 疑惑> #6-6 勝負服

          連載小説 2020年代という過去<6章 疑惑> #6−5 ファッション結婚

          目次 前話 6章 疑惑 #6-4 尋問  尊と純が知り合って以降、二人は、週に一回程度、会うようになっていた。麗華は純の行動には干渉しないため、行き先を告げずに純が出掛けることに何も疑問を抱いていないようだった。念のため、麗華があまり行かない場所を選んで、尊と会うようにしていた。  その日は、尊と純が会うのは5回目の日だった。麗華と純の家の近くで待ち合わせ後、麗華が滅多に行かない、最寄駅の反対側にある川沿いの公園に向かった。  ベンチに座りながら、純が不機嫌そうに切り出す

          連載小説 2020年代という過去<6章 疑惑> #6−5 ファッション結婚