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日本のTVサスペンス&ミステリードラマ :民放編

そもそも、サスペンスとミステリーの違い

ネットでいろいろと調べましたが、釈然としないコメントが多く、作品の区分けも筆者によって食い違っています。ただ、大まかには次のような区別でかまわないのではと思います、

ミステリー:
謎解きの過程に焦点を当てた作品(犯人探し中心)
サスペンス:
恐怖や不安に焦点を当てた作品(犯人のアリバイ崩し中心)

ただ実際の番組では、サスペンス&ミステリー両方の要素ありというドラマが多いと思われます。

お気に入りドラマを選ぶ基準

前回は、あまり本数の多くない海外TVドラマでしたが、日本のTVサスペンス&ミステリードラマとなると、2時間単発ドラマから連続ドラマまで無数にあり、職種も刑事、探偵、弁護士、消防士、保険調査員、家政婦さんなど多種多様で、何か基準を設けないと選別できません。
また、NHK制作か民放制作かで、作品の印象・内容・質が大きく違いますので、選考に迷ってしまいます。

そこで、有名すぎる長寿ドラマ「相棒」、「十津川警部」、「おみやさん」、「家政婦は見た」等は除き、「アンナチュラル」のように主題歌とともに話題作になった医療系・法医学系ドラマも避けました。

そうして、お気に入りドラマを選ぶ基準を以下のように4つ決めました、

サスペンス&ミステリー、+異質の要素もあるドラマ
2010年以降に作られた連続ドラマに限定
医療系・法医学系ドラマは避ける
NHK、民放と分けて選ぶ


今回は民放編、古い年代順に挙げます


~ 警視庁公安部 ~
2010年  SPEC:警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿
脚本:西荻弓絵

最近の再放送で初めて見ました。漢字のサブタイトルが仰々しいので公安警察の極秘捜査物と思いきや、回が進むにつれて、超能力という奇抜な絵空事の世界観に貫かれた、悪ふざけとブラックユーモア、血と狂気と殺戮、悪意と不信と人間愛にもあふれた、全く未体験の稀なる問題作、と感じました。

このドラマの成功の一番の要因は、戸田恵梨香が演じるキャラクターの異常な面白さではないでしょうか。常に左腕はギブス状態でどこに行くにもキャリーを引きずり、いつも同じ格好、異常な食欲、空気を読まない行動力など完全な奇人変人。そういう戸田とは全く対照的で、加瀬亮演じるくそ真面目で頑固ですぐ拳銃を抜きたがる元機動隊の相棒。この二人の凸凹コンビに、上司の竜雷太がうまくからみ、超能力少年・神木隆之介の存在が妖しい光を放っていました。


~ 探偵 ~
2014年  リバースエッジ大川端探偵社
原作:ひじかた憂峰  脚本:大根仁、黒住光、神徳幸治

東京は浅草、隅田川沿いの雑居ビルにある「大川端探偵社」。いつもやる気のなさそうな調査員、過去の経歴は謎に包まれている所長、風俗嬢でもある受付の3人で、不可思議な調査依頼に応えてゆく、・・という物語です。

特異な依頼者たちの奇妙な人生にまつわる裏話が、40分という短い放映時間の中で無理なくまとめられており、ラストに必ずサプライズが仕組まれている点がこのドラマの面白さであり、オダギリジョーはじめ、ゲスト俳優たちがいい味を出しています。

一話だけ選ぶなら、4回目の「アイドル・桃ノ木マリン」です。依頼者(マキタ・スポーツが良い!)は、若いころに出会ったアイドル歌手との握手が忘れられず、その記念を大事にするあまりその手を洗わないまま現在に至っており、すでに引退しているその歌手にもう一度だけ会いたいと懇願します。調査後、ついに十数年ぶりに両者が対面しあうのですが、そこには驚くべき真実が判明するのです・・・。

音楽担当 EGO-WRAPPIN のオープニング曲の乗りとリズムそして歌声、ブルース調のエンディング曲とともに最高に素晴らしいです。


~ 刑事 ~
2014年 ボーダー 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係
脚本:金城一紀

”あなたを殺したのは誰ですか? ”
任務中に頭部を撃たれた後遺症で「死者が見えて対話する能力」を持った刑事が、無念の死を遂げた犠牲者たちの声に耳を傾けながら事件の真相に迫ってゆく姿を描く、・・という物語です。

一面だけ見ていては解らない人間の心の奥の多面性、善意と悪意、愛と憎しみなどの「ボーダー」=境界線に立たされて苦悩する刑事役を小栗旬が印象深く演じ切っています。
ドラマ全体にダークな雰囲気が漂い、音楽も重く響いて、気休めや冗談もなく進行してゆく・・・という「救いのない暗さ」ですが、なぜか見続けてしまうのは、そこに、うわべの明るい善意や良心に逃げずに真実を見つめたいという欲求があるからかもしれません。


~ 警視庁公安部 ~
2017年 CRISIS 公安機動捜査隊特捜班
脚本:金城一紀

様々な技能を持った5人の特別捜査チームが、テロリスト、悪徳政治家、新興宗教、軍事スパイなどの国家を揺るがす犯罪者たちに立ち向かう、・・という物語です。

謎解きのミステリーやサスペンス要素もありますが、見せ場はスター俳優、小栗旬・西島秀俊の演じるアクション・シーンです。

特に印象に残ったのは、第7話「平成維新軍の革命! 未来を守れ」です。若者男女の有志結社が、政府の汚職要人たちの高学歴な息子・娘を殺害ターゲットにしている情報を掴み、何とか阻止しようとするエピソードでしたが、その準備訓練や殺害動機などが丹念に描かれており、こういうことが現実に起こりうるという、リアルな説得力がありました。

国家への忠実な「番犬」として過酷な任務をこなし続けるメンバーたちの心にも「自分は本当にやるべき正しいことをしているのか?」という疑念と職務とのあいだで生じる葛藤も描き込んで、ドラマに深みを与えています。


~ 専業主婦 ~
2017年 奥様は、取り扱い注意
脚本:金城一紀

人気タレント綾瀬はるか主演のヒットドラマです。元は凄腕の秘密工作員、今はただの主婦という設定。普通であろうとしても、つい元の仕事癖が出て、ご近所のもめ事を彼女流に解決してゆく、・・という物語です。

温厚な夫役を西島秀俊が演じていますが、実は彼にも隠された顔があったというわけで、その後のふたりについては、映画版で描かれています。

現在知る限りの日本女優で、アクションがここまでさまになる女優は、綾瀬はるか以外に思いつきません。NHK大河「八重の桜」での鉄砲使いや、同じくNHKドラマ「精霊の守り人」での激烈な剣使いなど、見事な雄姿でした。


~ 特殊な業者 ~
2018年 dele ディーリー
原案:本多孝好  脚本:本多孝好 他

クライアントの依頼を受け、死後に不都合なデジタル記録をパソコンやスマホからすべて抹消=delete する仕事を描いた物語で、主演を務めるのは、人気・実力ともに高評価の若手俳優、山田孝之菅田将暉です。

まずはパスワードの解除から始まり、次に内容の閲覧と削除部分の確認、そして削除、という手順通り進めば仕事完了ですが、この「内容確認」段階でさまざまな疑念や迷いが生じてしまい、それを現地に行って関係者に確かめようとすることで、クライアントの人生や隠された真相に直面してしまい、最後に主人公たちはどうするのか、・・という点が最大の見せ場です。

きわめて特異な題材のようで、実は「デジタル遺品」というまさに現代ならではの深刻な問題がテーマになっており、山田孝之演じる主人公をあえて車椅子利用者にさせ、一方の菅田将暉を軽快なフットワークで自由勝手に動き回らせるという設定にしたところがユニークで大成功だったと思います。


~ 探偵 ~
2019年 「シャーロック アントールド・ストーリーズ」
脚本:井上由美子

コナン・ドイル原作の舞台を現代日本に置き換え、本家のキャラクターを踏襲して尊重しつつ、主役俳優ディーン・フジオカが颯爽と粋なシャーロックを演じて新たな魅力を強く打ち出しており、ワトソン役の岩田剛典もいい味を出しています。切れのよい音楽、巧みなカメラワーク、謎多くも展開の早い筋立てで面白く見ることのできたドラマです。


~ 探偵 ~
2020年 美食探偵
原作:東村アキコ  脚本:田辺茂範

こだわり強く変人タイプの探偵と、ゆきがかり上その助手になってしまう弁当屋の女性とで、食にまつわる奇妙な事件に巻き込まれてゆきます。謎解きがあって毎回面白く見ることができましたが、後半は、宿命の悪女「マクダラのマリア」との因縁による果し合い中心になってしまう点はちょっと惜しいです。

それにしても、悪女役の女優、小池栄子の悪魔のような美しさと狡猾さは圧倒的な存在感でした。主役のふたり、中村倫也(「珈琲いかがでしょう」もよかったです)と小芝風花の魅力もドラマを盛り上げています。


まとめ

民放とNHKとでは、ドラマの作り方や配役、脚本を通して伝えたいものなどを比較してみると、次のような違いを感じます:

民放では、スポンサーの意向があるからでしょう、話題作りの主題歌を入れ、人気タレント起用で若い年齢層をターゲットにしたような作品が多いです。その一方、主に深夜帯では、型破りな人物造形や奇想天外なストーリー、社会問題に鋭く切り込んだ独自の視点で描かれた異色作品も時おり放送されているので見逃せません。

NHKは、幅広い年齢層を対象に考えた筋立てで、現代社会の抱える問題を良識と情熱で解決しようとする傾向の作品が多いです。それゆえに、反社会的な人物造形は少なく、救いのない破滅的な内容にもならないので、ハズレが少なく、誰でも安心してみることができます。


次回は、そういうNHKドラマを紹介します