魔法のような夜だった-ついったお題SS-
お題
夏の空、流れ星、魔法
田舎のいいところは、星が綺麗に見えるところだと思う。
夏休みも折り返しに差し掛かる頃、数日田舎の祖父母の家に滞在する期間があった。所謂お盆の帰省ってやつだったんだけど、良く言うと自然豊か、悪く言ってしまえばド田舎なその場所で僕は早々に暇を持て余していた。裏山を探索してはしゃぐような年齢でもないがスマホばかり見ていると親が煩いので、適当に外に出たり宿題をこなしたりしていた。
それなりに退屈していたが、ここから見える星空は好きだ。ちょっとどうにかすれば屋根に登れる構造がありがたい。
でも、ちょっと遠いなあ。
ふと、遠い記憶、まだ裏山で遊んでは虫取りやら秘密基地作りやらに興じていた頃を思い出した。基地からもう少し登ったところが広場になっていて、近所の連中とよく遊んでいたっけ。
それを思うとここからの風景だけじゃ物足りなくなり、スマホだけ持ってこっそり勝手口から裏山へ向かった。
山中を朧気な記憶とスマホの灯りを頼りに進み、秘密基地にしていた大木を通り過ぎる。山登りのきつさはあるが、あの頃よりは背が伸びたからか思ったより早く着いた。そして、記憶よりも神秘的な場所であることに気付く。
そこだけがぽっかりと開いて、はっきりと空が見える。それに魅入られて、ふらふらと中央付近に進む。視界が星空で埋まる。星座とかは分からないけど、それでいい。
ふと、地面の葉が擦れる音がした。
視線を移すと、長髪の、たぶん同じくらいの女の子がいた。1人か? こんなところで大丈夫か?
「あれ? 来てたんだ」
その声が思いの外気さくで、肩の力が少し抜ける。
「まあ。1人? 危なくない?」
「ひとりだよ。そんな気分なの。君もでしょう?」
そう言われてしまえば、返す言葉はなくなる。
空に視線を戻すと、ねえ、とまた声が掛かる。
「流れ星、見たくない?」
見たい見たくないで見られるものでは無いだろう。そんな顔をしているのがバレたらしい。目を閉じて、30秒数えてみてという彼女の笑みが悪どい。かなり半信半疑だったが、急かされてしまえば仕方なしに俯いて目を閉じるしかなかった。
10数えたところで、彼女の足音が近付く。
20数えたところで、彼女から声がかかる。
「ね、そのまま、顔だけこっち見て?」
言われるままに数えながら顔を上げると、ラスト5カウントのタイミングで僕の目に彼女の手がかかった。そして、最後の3つはカウントも重なる。
いいよ。という優しい声とともにするりと目隠しが外れる。彼女の手の温もりが残る瞼を上げると、流れ星が一筋、二筋。
驚いて、彼女の顔を見た。
にっこりと微笑む彼女の背に、もう二筋。
こんなにも近くで、こんなにたくさんの流れ星を見たのは初めてで、柄にもなくテンションが上がってしまった。 ひたすら空を見上げてひとしきり星を満喫した僕は、彼女にお礼を言うべく少し固まった首を戻して視線を巡らせた。
いつの間にか、彼女の姿はなかった。
こんな開けたところには到底隠れられない。歩き去っていたら流石に足音で気付くはずだ。
どこにいった? そもそも、彼女は一体?
思考が沈みそうになったので、もう一度空を見上げる。
そういえば、あれだけ流れ星を見たのに、願い事のひとつもしなかったな。あの子にまた会えたらいいんだけどな。なんて思いながら見ても流星は降ってこない。
もう遅いし帰ろう。広場を後にしようとして、山道に入るところで振り返る。
最後に一筋走った流れ星を見て、この夜は奇跡なのだと、確信めいた感覚で胸がいっぱいになった。