Under the Rosemoon(狐火黒乃怪文書企画投稿作品)
・これは何ですか?
タイトルの通りです。電子妖精計画!現代ミリタリーXXX!狐火黒乃さんが毎月開催している「テーマに沿った1000字以内の怪文書をリスナーから募る企画」に投げました。幻覚タイプの怪文書です。狂気は薄め。なので「出すとこ間違えてない?」って言われました。
正統派や狂気度高めのものなどなど、多種多様に粒ぞろいの怪文書が揃っています。とりあえずこのアーカイブみよっか。
三時間とかいう長丁場。おつかれくろのす。
今月のテーマは「ひと夏の○○」らしいです。たのしみだね。
・本文
「京」に、まだこんな所が会ったのか。そう思わずにはいられない廃教会。ここを選んだのは、誰も来ないから。もうひとつは、人の手が入らない廃れた場であるにも関わらず、あるいはだからこそか。蔓薔薇が鮮やかに咲いている。
『薔薇の下での会話は、決して口外しない』
固く繋いだ手は、まだ白手袋を外していない。
慎重に扉を開け、足元に気を留めつつ礼拝堂の中に入ると、誓いを捧げる十字架と美しいステンドグラスは残っていた。天井が一部崩落し、空が見えるのも趣がある。月は、わたしの隣で輝いているからいいんだ。
所謂バージンロードをふたりで歩いて、然るべき場所で止まる。向き合い、繋いでいた手を解き両手を取り合う。
「ぼくさ、こういうの、ちゃんとわかんないんだけど、きみと一緒にいたくて、きみを幸せにしたいのは本当。だから、」
真っ直ぐにこちらを見つめる青が眩しい。
「電子世界において存在が曖昧な神よりも、今のぼくらを見守ってくれて、ぼくの力にもなる月に。あなたを生涯愛しぬくことを誓います」
堪えようとしていたのに、涙が一筋零れる。誓ってくれる? という一言に何度も頷き、絞り出すように誓いの言葉を紡いだ。
にっこりと笑うとするりと手を解き、懐から箱を取り出す。指輪まで手配していたらしい。出す手を躊躇っていると、左手を取られた。環を通されたのは、小指。
「たとえ一緒にいられなくても、そばにいたいんだ。ずっと隣にいるからね」
そう言われてしまえば何も言うことは無い。控えめにあしらわれたアクアマリンが瞳の色とシンクロして、見守ってくれていると感じる。わたしも、と指輪を手に取る間に、彼女が手袋を外した。右手だ。
「離れてても、一緒にいてほしいからさ」
ここ、と動かされたのは薬指。どぎまぎしながら手を取って指輪を通すと、満足そうに眺めている。少し子供じみた表情が可愛らしい。
微笑ましく眺めていると、こちらに向き直った彼女と視線が絡み合う。互いに半歩ずつ近づく。遮るものは、何も無い。
ここを出ればまた、ひとりとひとりとして生きる日常に戻るから。
「愛してるよ」
この唇を離したくない。ふたりでいる時間を永遠にしたい。そんな欲張りは許して欲しい。