ひとりでは生きられない|劇団久遠旗揚げ公演『象の王様と天使の筆』
エネルギーに満ち溢れた舞台が、新たな旅を始めている。
日本大学芸術学部の学生、浅賀香太(代表)・上村陽太郎・丹羽駿介ら3人により旗揚げされた劇団久遠の公演が、23日(水・祝)に東京・高円寺のアトリエファンファーレ高円寺で幕を開けた。
原田章生によるストップモーションアニメ『ゾウの王様と天使の筆』を原作に、丹羽駿介が台本を書き下ろした。演出は上村陽太郎による。
舞台は、乱暴で自分以外に興味を持たない象の王様が治める動物の国。そこでは、ナマケモノやリス、パンダの親子、フラミンゴ、孔雀、ダチョウといった個性豊かな動物たちが、狭い世界の中でお互いを励まし合いながら、力を合わせて生きていた。しかし、王様の横暴な振る舞いに動物たちは限界を迎えていく。
一方の王様は、「この国を治めているのは自分なのだから、誰も指図をしてはならない」と啖呵をきっていた。王様につかえる正義感が強いアルマジロやヒツジは命令に従いながらも、どうにかして王様を変えることはできないか、模索する。ある日、覚悟を決めたアルマジロは王様に国民を労わってほしいと懇願するが、、、。
果たして、この国は、この王様はどうなるのか?そして、天使の筆が誘う世界とは?
参加型の演劇をコンセプトにする同劇団において、観客はこの国で暮らす動物の仲間になる。作中では動物たちが賑やかに客席へ問いかける。この作品の中では、観客は存在しない。誰もが一人のキャラクターとして舞台を楽しむことができる。フラミンゴと孔雀のユーモアあふれるかけあいに注目を。
劇団のコンセプトがダイレクトに伝わってくるのは、作品のメッセージ性ゆえだろうか。私たちは一人では生きていくことはできない。みんなが皆を想い合い、助け合うからこそ、微笑みを忘れることなく命を全うすることができるのだ。
演劇も同じく、舞台と客席、それぞれがボールを投げ合うことでエネルギーが生まれ、そこに舞台が生まれる。彼らが創る演劇は、舞台があるべき姿を力強く模索しているように感じる。
力強い舞台ではあるが、そのエネルギーが空回りしてしまっている部分も見受けられる。
やや“間“をつかみ過ぎているだろう。メタ的な構造、すなわち作品の世界観と現実空間の行き来が激しいが為に、くどさが残ってしまった。客席との対話は重要な部分であるし、ここを減らすことが最善とは言えないが、もっとコンパクトに魅せられる部分があるはずだ。たとえば、この舞台はそれぞれのキャラクターの独白の部分が多く存在するが、そのキャラクターは絞ってもいいだろう。台詞と台詞の間や、客席との空間という意味での”間”に意識が集中しているがゆえに、ややエネルギーが分散している印象を受ける。
また、暗転が多い。もう少し転換の方法は議論が必要だろう。大掛かりな装置がなく、役者のみの転換となるので方法は限られるが、たとえば上手と下手で空間を使うなど、舞台上の空間の中に動物たちの意識の統一性を生む手段は、もう少しあるように感じる。
少々、自分が感じたありのままの部分を羅列させていただいたが、この活力あふれた舞台を、十分に魅せてほしいと強く感じたからこその劇評だ。これだけのエネルギーを受け取った舞台は久々、いや初めての経験だったか。これからの劇団久遠の活躍が楽しみでしょうがない。
今回の旗揚げ公演、『象の王様と天使の筆』は今月27日(日)まで。詳細は劇団公式SNSを参照。この活力みなぎる舞台、ぜひ体感されたい。
<公演情報>
劇団久遠 旗揚げ公演『象の王様と天使の筆』
公演日時
11/23(水) 14:00/19:00
11/25(金) 19:00
11/26(土) 14:00/19:00
11/27(日) 15:00 *売り切れ
公演場所:アトリエファンファーレ高円寺
<キャスト>
象の王様 新井智琉
ヒツジ 野口那穂
アルマジロ 小林誠強
リス 小林友恵
ナマケモノ 福田茉唯
パンダの父 浅賀香太
パンダの母 竹村玲奈
パンダの子 富永海仁
孔雀 丹羽駿介
フラミンゴ 佐々木武尊
ダチョウ 齋藤 碧
天使 篠原瑠那
劇団久遠Twitter:https://twitter.com/Gekidan_Kuon
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