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〈18歳以上向け〉に思う 【よもやま話・1682字】

 私の通っていた小学校では、「朝の10分間読書」というのがあった。朝の会が終わった後、好きな本を持ってきて10分間読む。学校の図書館で借りた本でもいいし、家から持ってきた本でもいい。誰かに借りた本でもいい。ただし、『世界の歴史』など図書館にあるような漫画以外の、いわゆる漫画はだめ。

 隣の席の男の子は、『ロビンソン・クルーソー』だったか『海底二万里』だったかは忘れたが、二段組の分厚い本を、その時間を使って少しずつ読み進めていた。彼がその本を読み終わったとき、達成感に満ちた顔で「読んだあー」と言いながら、大きく仰け反ったのを思い出す。目がキラキラ輝いていた。

 この「朝の10分間読書」で、私はやらかした。名づけるなら、ラノベ系文庫事件である。それは、小学校6年生のある日、背表紙がピンク色のラノベ系文庫の本をクラスの女子の誰かが学校に持ってきたことに始まる。それをきっかけにして、ラノベ系文庫はたちまち女子の間で大ブームになった。流行っていたのは、講談社のⅩ文庫、小学館のパレット文庫、学習研究社のレモン文庫、集英社のコバルト文庫など、かわいらしいイラスト入りの文庫だ。小学生にしてはちょっと大人な描写もあるラノベ系文庫を、女子はキャッキャッ言いながら読みあさっていた。私もその一人だった。

 ところで、私が小学生の頃、私と家長との間には、本を購入する際のルールがあった。週刊誌や月刊誌、雑誌はだめ、漫画は月に1冊まで、「字の本」はいくらでもオーケーというルールだった。「字の本」とは、小説とか、参考書とか、辞書とか、字がずらずら並んでいる本のことで、そういう「字の本」だったら欲しいだけ買えるというルールだった。ラノベ系文庫は一見「字の本」だ。うちの大蔵省は特に内容は確認せず、「字の本」というくくりでラノベ系文庫の本を買ってくれた。

 私はこのラノベ系文庫を「朝の10分間読書」で読んでいた。いや、もう馬鹿みたいにハマり過ぎて、トイレ休憩の時間や給食が配られるまでの待ち時間、ちょっとした時間の隙間を見つけては、いそいそとラノベ系文庫を読んでいたのだ。
 そのせいで、ラノベ系文庫を学校に持ち込むことが禁止になった。
「背表紙がピンク色の本は、学校に持ってきてはいけません。漫画と同じ扱いにします」と、図書館の先生からお達しが下った。
 がーん、である。「がーん」としか言いようがない。「がーん」は死語ですかね。今時の言葉では「orz」? これも古い? つまりは、白目むいてひっくり返るか、膝から崩れ落ちそうになるぐらいの衝撃を受けたのだ。
「すみこちゃんが先生のいるところで読んでたから……」
 大変に申し訳ないことをした。禁止になるとは微塵も思っていなかった。

 これがしかし、いまだに、なんで駄目なのかが分からない。ラノベ系文庫は駄目で山田詠美は純文学のくくりというのが、私には分からない。ラノベ系文庫を学校へ持ち込むことを禁止している学校というのはしばし聞くが、山田詠美の小説の持ち込みを禁止している学校というのは聞いたことがない。片や「内容はともかく、文体がだいぶラフ」、片や「内容はエロチシズムに富んでいるが、文体は教科書的」。学校において、前者は禁止で、後者は純文学。一体、なぜ。
 とはいえ、確かに、学校のテストなんかをラノベ系文庫のノリで作文すれば、バツになるのは分かる。ラノベ系文庫のノリは、改行が多く、小書き文字も多く用いられる。「ぐゎあぁーーーんっ!!!」という表現は、確かに学生の作文や論文には似つかわしくない。
 でもさぁ、と思う。

 なぜこんな話をぐだぐだ書いたかというと、拙著の「本当にあったら怖い話」がnote様より〈18歳以上向け〉とのお墨付きを頂いたので、これは是が非でも掘り下げたいと思った次第なのである。
 どの辺に境界線があるのだろうなあと思っている。それゆえ、今日はこんなことをぼやいている。あの、別に、異議を申し立てているわけではないのです。疑問に思っているというだけの話なのです。ちょっと心がくさくさしているときに、雨まで降ってきたな♡といったぐらいの感じです。


↓ こちらは〈18歳以上向け〉です。 ↓

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りくのすみこ
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