電のこデビュー! 【よもやま話・878字】
伸び放題の木を剪定しなければならない。いいお天気だし、よし、ここは私がと、立ち上がってみた。
生まれて初めて、電動のこぎりなるものを握る。家の長から、使い方の手ほどきを受ける。
「安全装置が壊れているから、気を付けてね。ここを押せば、すぐ動き出すから」
安全装置? ふむふむ、なるほど。ここのスイッチを押せば、刃が動くのね。
「両手でしっかり持って。こことここ」
うむ。分かったぞよ。私に任せろ。いざっ!
ブビーーンっ。
おおおおお、両手から伝わってくる振動で全身がシェイクされる。これが電のこかあ。なんだか、鼻の下がむず痒くなってくるぞな。
夾竹桃(キョウチクトウ)という木を切っていく。ところが、夾竹桃の枝に藤(フジ)のツルが巻き付いている。この藤のツルが強くて、ちっとも切れない。
ぬおおおおお!
藤のツル、強っい。
藤のツルのせいで、夾竹桃もなかなか切れない。夾竹桃は、藤のツルに縛り上げられているようにも見えるが、守られているようにも思える。
毒性が強くて虫が付かない夾竹桃を支柱にして、藤のツルはそこかしこに巻き付いて伸びているのだが、こうすると、藤も虫が付きにくくなるのだろうか。関係ないか。それにしても、ずいぶん仲良く絡み合っている。
藤のツルを棚か何かに誘引してコントロールできれば、きれいな藤棚になるのかもしれないが、とてもそんな感じではない。
こういう強さが必要なのだと思う。
私は、強くなりたい!
いや、少しだけ強くなったかもしれない。家庭用のちっさい電動のこぎりで、木のほっそい枝を切れるようになっただけだが、昨日まではできなかったことが、一つ、できるようになったのだから。だが、それと同時に、電のこを使ったことのない「私」は、過去のものとなった。何かを得れば、何かを失うのか。私は、電のこを使ったことがない「私」を失った。
すみこは木を切るぅ~。ヘイヘイホー、ヘイヘイホー。
気立てのいいこだよぅ~。トントントン、トントントン。
すっかり鼻歌交じりである。
私、電のこ、小さいやつなら使えます。
次は、チェーンソー(家庭用)に挑戦する予定です。
ねじねじ
ねじねじ
夾竹桃と藤